タナダユキ監督が語る、オリジナル作品を作る困難さと、過去の日本映画への一途な想い

『ロマンス』監督・タナダユキ

「大島さんは、子供の頃に身近な場所にいた“お姉さん”って感じ」

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——そういう意味でも、今回の『ロマンス』は97分という上映時間も素晴らしいですよね。もちろん、タナダさんの過去作でいうと、たとえば『ふがいない僕は空を見た』が142分あったことにはそこに必然性があったわけですけど、今のメジャーの日本映画のほとんどが意味もなく横並びで120分前後だったりする中で、ちゃんと内容に則して短い作品は短くあるべきだという姿勢が感じられて、それだけでも「おっ!」って思ってしまう(笑)。

タナダ:だって、昔の日本映画って70分台とか当たり前だったじゃないですか。

——プログラムピクチャーの時代は、特にそうですよね。

タナダ:短くても、ちゃんと中身がギュッと詰まっていておもしろかったら、それでいいわけですから。映画って、必ずしも話がまとまっていなくて、球を投げっぱなしでも、それはそれで印象に残ったりするものだと思うんです。

——本当にそう思います。

タナダ:私も最近の映画は長いなってよく思います。今回の『ロマンス』は、90分ちょっとが相応しいテーマだと思ったし、自分の中でも、『ふがいない僕は空を見た』や『四十九日のレシピ』が必然性はあるにせよ2時間を超えてしまったから、今回はもうちょっと肩の力を抜いて映画を作ってみたいという気持ちがありました。

——多くの映画監督は、プロデューサーが強権をふるわない限り、せっかく撮った素材をなるべく長く残したいものって聞きますけど、タナダさんはそれに当てはまらない?

タナダ:まったく当てはまらないですね。今回の『ロマンス』は90分台でって最初から固く決めていたし、『ふがいない僕は空を見た』も『四十九日のレシピ』も、1分でも短くしたいと思って削っていって、その結果があの時間という感じでした。

——今回の『ロマンス』では、大島優子さんの女優としてのポテンシャルを見事に開花させていましたが、タナダさんが「この俳優とやりたい」と思うポイントというのはどこにあるんですか?

タナダ:大島さんに関しては、実はアイドル時代から興味を持って見ていたんですがーー。

——あ、アイドルとかもお好きなんですね? ちょっと意外です(笑)。

タナダ:毎回コンサートに行ったりとか、そこまでではないですけど、音楽番組とかもたまに見たりしています(笑)。で、大島さんに関しては、彼女の明るくて可愛くて元気でみたいな姿の裏側にあるドラマのようなものを、勝手に感じていたんですね。それで、気になる存在になって…。大倉(孝二)さんのことも、それこそ15年くらい前から舞台で何度か拝見していて、「すごく色気のある人だな」って勝手に感じていました。そういう、その人が発しているものの裏側に、自分が何かドラマのようなものを感じるかどうか。自分が仕事をご一緒したいと思うかどうかというのは、そこが大きいように思います。

——大島さんに感じた「ドラマ」というのを、もうちょっと詳しく教えてもらえますか?

タナダ:大島さんは、なんとなく、自分が子供の頃に身近な場所にいた「お姉さん」って感じがするんですよね。いろんなものを引き受けてくれていて、すべてわかっていて、自分の目線に合わせてくれている感じというか。

——あぁ、なんとなくわかります。あと、これは大島さんとも取材の時に話したんですけど、とにかく今回の『ロマンス』は本当にクスクス笑える作品で。こんなに自然に笑える作品って、日本映画ではとても珍しいってことで。

タナダ:意識して笑わせようとするとスベるので、自分がおもしろいと思うものだけでやってみました。「こうしてやろう、ああしてやろう」、っていう気持ちは全然ありませんでした。

——確かに、「笑い」の要素だけじゃなくて、タナダさんの作品には、アザとさみたいなものに対するものすごく強い抵抗感がありますよね。

タナダ:それはあるかもしれませんね。自分自身がアザといものに、興ざめしてしまうので。でも、役者の方に助けられているというのが一番ですね。今回の『ロマンス』でも、大島さんや大倉さんが、とても自然に演じてくれたので。同じ台詞でも、役者さんによって全然違いますから。

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撮影中のタナダユキ監督

——これはよく訊かれる質問かもしれませんが、タナダさんが最も影響を受けた映画監督というと誰になるんでしょうか?

タナダ:単純にファンなのは、成瀬巳喜男監督、増村保造監督、相米慎二監督の3人です。

——あぁ、やっぱり日本の映画監督になるんですね。

タナダ:日本映画が好きですね。

——じゃあ、ご自身もそうした先達たちの末裔であるという強い自覚のもとに映画を撮っていると。

タナダ:末裔……、うーん、そこまでは思えませんね。ただ、末席を汚しているなぁと(笑)。

——そんなご謙遜を(笑)。むしろ、その伝統の良い部分を守り抜いているのがタナダさんの作品だと思います。

タナダ:映画の中にある、日本人特有の間とか庶民の文化、日本語の表現というものに興味があるんですよね。だから、これまでも過去の日本映画を中心に観てきています。

——たとえば今回の『ロマンス』でいうと、僕が思い出したのはジャック・リヴェットが70年代に撮った『セリーヌとジュリーは舟でゆく』のような、フランス映画の軽妙な喜劇の系譜だったりもするのですが。

タナダ:へぇー(笑)。

——(笑)。

タナダ:そんな素敵なことを言われても、キョトンとしてしまいます(笑)。

——それは失礼しました。

タナダ:だから、本当にいつも「なんかすみません」って感じで映画を撮らせてもらっているんです(笑)。

(取材・文=宇野維正/写真=下屋敷和文)

■公開情報
『ロマンス』
8月29日(土)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
出演:大島優子 大倉孝二 野嵜好美 窪田正孝 西牟田恵
脚本・監督:タナダユキ
製作:東映ビデオ
配給:東京テアトル
2015年/日本/97分/5.1ch/ビスタ/カラー/デジタル
(C)2015 東映ビデオ
公式サイト

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