なぜオーストラリア出身女優はハリウッドで人気なのか? ミア・ワシコウスカらの活躍から理由を探る
近年、ハリウッドにおいて国籍の多様化が進んでいる。昔からイギリス系の俳優の活躍は珍しくなかったが、最近ではそれ以外の国から来た俳優の躍進が目立つようになった。とくに女優界では顕著で、分かりやすい例を挙げるとするならば、アカデミー賞の主演助演両女優賞において、候補に挙がった5人の中にアメリカ以外の国籍を持つ女優が必ず入るという状況が、もう20年以上続いている。
中でもここ20年の間で急激に目立ってきているのが、オーストラリア出身の俳優たちである。アカデミー賞常連のラッセル・クロウや、メル・ギブソン、ケイト・ブランシェットなど1980~90年代から活躍するスター、あるいは21世紀に入り頭角を現した若手スターたちのほとんどが、ハリウッドメジャーの大作映画で主演・助演クラスの役柄を演じているのである。
とくに20代前半にしてワーナーの『エンジェルウォーズ』(2011年)で主演を務めたエミリー・ブラウニング(1988年生)と、ディズニーの超大作『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)でアリスを演じたミア・ワシコウスカ(1989年生)の二人は成長著しく、将来性も抜群な女優である。ちょうど今夏、日本でこの二人の主演作がそれぞれ公開された。
ブラウニングが主演を務めるイギリス映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』(2014年/公開中)は、人気バンド「ベル・アンド・セバスチャン」のスチュアート・マードックが監督を務める青春ミュージカルで、スコットランドのグラスゴーを舞台に、拒食症で入院していた少女が、病院を抜け出して向かったライブハウスで知り合った仲間とともに、音楽の世界へ踏み出す物語。
一方、ワシコウスカ主演の『奇跡の2000マイル』(2013年/公開中)は、実在した冒険家ロビン・デヴィッドソンの回顧録を映画化したロードムービーで、4頭のラクダとともにオーストラリア西部の砂漠を歩いて横断した女性の姿を、35mmフィルムで撮影された雄大な大地の映像とともに描いている。
オーストラリアでは現在年に100本程度の長編映画が作られている。映画市場の規模としては大きくないが、だからと言ってこの国を「映画後進国」と安易に呼ぶことはできない。
1898年に世界初の映画スタジオである「ライムライト・デパートメント」が作られてから、当時のオーストラリア映画界は隆盛を極め、多くのハリウッドメジャー会社がオーストラリアの地にスタジオを建設するようになった。その理由は極めて明確で、土地が広く安く、かつ英語が通じるということである。それにより現在に至るまで、オーストラリアとの合作によるハリウッド大作が作られることは決して珍しいことではなくなったのだ。
エミリー・ブラウニングはまさにその恩恵を受けた一人である。まだオーストラリアでも駆け出しの女優だった彼女が、米豪合作のホラー映画『ゴーストシップ』(2002年)で物語のキーとなる少女役に抜擢された。その理由として、数多くのハリウッド大作を手がける映画製作会社ヴィレッジ・ロードショー・ピクチャーズがオーストラリアにあったからという点も挙げられるかもしれない。しかし、その後数本のオーストラリア映画を経て、初めてのアメリカ映画となる『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』(2004年)でメインキャラクターを演じ一躍存在を知られることになったブラウニングの最大の幸運は、その時点で同世代に彼女以上の知名度と存在感を持つ英語圏の女優がいなかったということである。