高校野球のPK戦化とM-1化が進んでいる? ゴジキが語る、甲子園の現在地
野球評論家・著作家のゴジキ(@godziki_55)の新刊『システムで読む甲子園――25年分のデータで解き明かす「勝利と成長」の条件』(カンゼン)が7月16日に刊行され、発売前重版にはじまり好調な売れ行きを見せている。以下では、著者本人へのスペシャルインタビューをお届けする。
2021年の単著デビュー以来多くのファンの支持を得てきたゴジキは、甲子園の現在地をどのように捉えているのか。そして、この人気覆面評論家の知られざる横顔と展望とは――。
サッカー本を意識した野球本
――この取材収録の時点で『システムで読む甲子園』の発売から2週間ほど経ちますが、ここまでの読者の反応など、手応えはいかがでしょうか?
ゴジキ:これまでの私の仕事は新書が多かったのに対して今回は単行本なので、いままで以上にデータをたくさん入れました。そういった新しい面がどう受け取られるかわからない部分もあったのですが、ありがたいことにやりたいことがきちんと届いて多くの方が好意的に読んでくださっているという印象です。
――おっしゃるとおり、今回の本は巻末資料ふくめデータや図が充実していますね。
ゴジキ:じつは、タイトルに「システム」という言葉を入れたことも含めてサッカー本を大いに参考にして作りました。サッカーだとシステムの戦術論の話が多く、その面は野球よりも優れていると思うので、そこは素直に取り入れていこうと。具体的に言うと、各年の優勝校の打順と守備陣形をビジュアルで表現したところなどはそれをとくにわかりやすく出しています。
――サッカー本を意識されていたとは……! 本書では豊富なデータを使ってさまざまな角度から甲子園を分析されていますが、まず前半では「数字が示す初戦敗退の正体」「2・3回戦突破のボーダーライン」「ベスト8から始まる別世界」など、ステージごとで勝敗を分ける要素が変わるという話が展開されます。これはこれまであまりなかった独特の視点だと思いました。
ゴジキ:そうですか。目次の項目自体は編集者の方と打ち合わせするなかで自然と決まっていったので、独特かどうかは意識していなかったですね。おっしゃっていただいた前半の分析については、これまで高校野球関連の本をいくつか出すなかで甲子園大会の傾向がある程度頭に入っていたのも大きかったと思います。今回ほどがっちりとデータ分析はしていないにせよ、たとえば「優勝校は優位に失策数が少なく打率が高い」であるとか、逆に勝敗を分けるのに意外と重要でない指標もあるとかいったことがあらかじめわかっていた。なので、そのイメージを浮かべつつ実際にデータを見て、予選から順にどうなっているのかを詳細に分析したかたちです。
――なるほど。詳細なデータは実際に本を手に取って楽しんでいただくとして、甲子園の各ステージを見るうえでなにか観戦が面白くなるようなポイントはありますか?
ゴジキ:まず前提として、データ上では見えないところもあるということはお伝えしておきたいです。もちろんデータを見ると全体のトレンドは見えてくるのですが、そうは言っても毎年の優勝校はそれぞれチームカラーも勝ち方もバラバラですから。
そのうえで、準々決勝以降で各チームがどう勝ち上がって優勝を目指すかを見るのは面白いと思います。いまは気温が高くなっていて選手の疲労もたまりやすいので、投手起用などの面である程度余力を残しながら準々決勝や準決勝を勝ち上がらないと優勝は難しい。ただ、もちろんそこで温存しすぎると決勝に行く前に負けてしまう。なので、そのバランスやチームの総合力がよりシビアに問われるようになっているわけです。
――別のものにたとえると、漫才のM-1グランプリ決勝で、最終決戦に進むためのネタと最終決戦で勝つためのネタをどういうバランスで考えるかといった話にも近いかもしれませんね。
ゴジキ:まさにそうです。M-1で言えば、2023年と24年に初の連覇を達成した令和ロマンさんは、出番順やネタ順を分析してそのなかでの勝ち方を綿密に計算していたと言われたりしましたよね。甲子園も同じようにシステマティックな考え方が必要な部分が大きくなってきているので、『システムで読む甲子園』はそれにも対応した見方を提供できているかなと思います。
低反発バット導入で進んだ“PK戦”化
――『システムで読む甲子園』の中盤では、各種のルール変更がもたらしてきた影響についてデータをもとに分析されていました。
ゴジキ:高校野球では、2020年に「1週間に500球以内」という投手の球数制限ができて、2024年には低反発バットが導入されました。いまは7回制の導入が議論されています。いずれも選手の身体への負担を減らすための施策ではありますが、それぞれ勝ち方のセオリーにも影響を与えていきます。
まず、球数制限でどのような変化が起こったかというと、エースだけでなく2番手以降にも近い力量を持った投手が何人かいる必要を生じさせました。これは上手い選手を集めやすい私立や強豪校に有利に働くルール変更です。ただ、その後低反発バットが導入されたことで投高打低の傾向が強まり、投手の力量の差が出づらくなったことで強豪校以外にも勝ち目が出てきました。7回制がもし導入されれば、後者の傾向やそれに沿った戦術を後押しすると思います。つまり、強豪校相手でもとにかく守りきってタイブレークに持ち込み、ワンチャンスで得点して勝つことを目指す。サッカーで言えば、強豪国を相手にしたチームがなんとかPK戦に持ち込もうとするような戦いに近いですね。
――PK戦の比喩はわかりやすくて面白いですね。
ゴジキ:今回のサッカーW杯もちょくちょく見ていたのですが、決勝トーナメントでもそういう試合があったように思いました。高校野球でも、低反発バットの導入以降はいわゆるジャイアントキリングで「あの強豪校がまさかの予選敗退?」というケースが増えてきています。
――本では、7回制が導入されると野球がどう変わるかデータも参照しながら分析されていました。そのうえで、7回制導入には反対の立場ですよね。
ゴジキ:はい。疲労がたまってくる7回以降に点が動く展開が多いというのもありますし、中学野球までは7回制で高校野球から9回制という差別化もできているのに、そこを変えてしまうのはどうなんだという立場ですね。
――そのほかに高校野球を良くするための提案などはありますか?
ゴジキ:いったんなにも変えない時期を設けたほうがいいのではないかと思います。2020年以降は、クーリングタイム導入やタイブレーク開始の繰り上げなど細かいところを含めるとほぼ1~2年に1回くらいのペースでルールが変わってしまっている。ルールをコロコロ変えると選手も監督も戸惑いますし、そもそも一つのルール変更が良かったのか悪かったのかも何年かやってみないと測れないと思うので。
――『システムで読む甲子園』には、野球王国として知られる関東と近畿の違いや対戦成績の分析もありました。「剛の関東」と「柔の近畿」という対比がされていましたが、これはデータだけでなく実際に試合を見た分析も多く入っていますよね。
ゴジキ:データを見ての定量的な分析と試合を見ての定性的な分析は両方大事だと思っていて、そこのバランスは意識しています。じつはこの本の版元であるカンゼンからは『アンチデータベースボール』という本も出していて、タイトルだけ見ると今回の内容と矛盾しているように思われるかもしれませんが、データと感性は両立しうる。たとえば、神奈川代表と大阪代表の直接対決ではある時期以降圧倒的に大阪が勝っているという数字上のデータがあるのですが、その要因は神奈川の「セオリーに沿って力でねじふせる野球」と近畿勢の「相手のリズムを崩す野球」の相性などにあり、試合を見てはじめてわかる部分もあります。
――野球を観戦するときにとくに注目しているのはどんなところですか?
ゴジキ:高校野球では選手起用を一番見ていますね。『システムで読む甲子園』に書いたことで言えば、エース投手のリリーフ起用という戦術が増えているところなどはそこに当てはまります。本当はエースを頭から持っていくのが正攻法なのですが、暑さや球数制限との兼ね合いでエースの役割も変わってきている。
――プロ野球だと見方は変わってきますか?
ゴジキ:まず、プロ野球はシーズンとポストシーズンに分かれます。シーズンのほうは最終的に9月にトップになればいいわけで、中長期的な視点でさまざまな起用法を試すことも必要になってきます。そして、ポストシーズンではデータでは測れない気持ちの部分をふくめたチーム力が出ますよね。昨年のワールドシリーズはまさにそんな展開でした。ふつうにデータで考えれば、山本由伸投手にあんな連投をさせる起用法はあり得ないわけですから。
野球評論家・著作家として目指す姿
――野球著作家としてのゴジキさんの横顔とキャリアの展望についてもお聞きしたいです。2021年に著作デビューされてからかなり速いペースで本を出されていますよね。
ゴジキ:デビューしたときは正直1冊で終わりかなと思っていたので、読者のみなさんに恵まれてここまで順調に来られたことはとてもありがたいと思っています。
――ふだんはどのようなスケジュールで仕事をされているんですか?
ゴジキ:ふだんはだいたい5時とか5時半に起きていますね。逆に夜遅くまで起きていられない体質で、朝にたまっている作業をこなしながらメジャーの試合を見ています。そのあとは高校野球の時期であれば高校野球を見ますし、夜はもちろんプロ野球の試合を見ています。
――過去のインタビューでは、試合を同時並行で見ることはすくないともおっしゃっていました。
ゴジキ:はい、できるだけひとつの試合を集中して見るようにしています。いずれにせよすべての試合を見ることはできないので、そこはメリハリをつけるようにしていますね。どの試合を見るかはお仕事をいただいた段階から逆算して決めます。
――そうは言っても日々たくさん試合を見ていらっしゃるうえにこの刊行ペースで、しかも日々Yahoo!ニュースで野球関連の記事へのコメントもたくさんつけていらっしゃるなど、すごい仕事量なのではないでしょうか。
ゴジキ:Yahoo!でも自分の記事を書くときはしっかり時間をとって書きますが、ニュースにはけっこうその場で反応してコメントをつけています。ただいずれにせよ、ありがたいことに忙しく仕事をさせてもらっているので、いわゆるプライベートな時間はほぼないかもしれません。睡眠時間はしっかり確保しているので、健康面は大丈夫だと思うのですが。
――ゴジキさんが目指している作家像はありますか?
ゴジキ:書くものの内容については実際に本を手にとっていただいて判断していただくとして、それ以外の面だと本を書いたあとの売上をどう作るかは意識するようにしていますね。宣伝記事や告知を出すタイミングも考えていますし、今回の本で言えば、野球本でタイトルに「システム」という言葉が入っているものはなかなかないので、検索でも上位を取れるのではないかといったかたちで提案させていただいたりしました。
――そこまで戦略的に考えてらっしゃるんですね。言われてみれば、他の著書のあとがきでは、野球以外のユーザーに支持される書き手にも触れられていました。そういった方々が目標なのでしょうか?
ゴジキ:じつは、どの著者や著作を参考にするかは書籍ごとに変えるようにしているんです。今回は冒頭でも話したとおりサッカー本全体のつくりを意識してみたのですが、サッカー関連で言えば龍岡歩さんや林陵平さんの著作もよく読みます。野球ばかりになってくるとものの見方や表現も偏ってしまう部分もあるかなと思っていて、野球以外のスポーツも幅広く見るようにしていますね。
あと、他の書き手で言えば文芸評論家の三宅香帆さんもすごいと思います。このご時世に新書で35万部のヒットを出したのは驚異的ですし、YouTubeや各手メディアの出演もふくめた活動量にも驚かされる。いずれにせよ、これからもいろいろなところから刺激を受けながら仕事をやっていきたいと思っています。
■書誌情報
『システムで読む甲子園 25年分のデータで解き明かす「勝利と成長」の条件』
著者:ゴジキ(@godziki_55)
価格:1,980円(税込)
発売日:2026年7月16日
出版社:カンゼン