【文芸書ランキング】本屋大賞、セールスへの影響力は? 朝井リョウ『イン・ザ・メガチャーチ』ヒットから考える
2026年4月第1週(4/6~4/12)のオリコン文芸書ランキングの第1位は朝井リョウ『イン・ザ・メガチャーチ』(日経BP/日本経済新聞出版)が獲得した。前回このコーナーでもお伝えした通り、4/9に本屋大賞2026の結果発表が行われ、『イン・ザ・メガチャーチ』が大賞を受賞した。2026年3月第5週(3/30~4/5)のオリコン文芸書ランキングでは第3位だったので、やはり大賞後に売れ行きは伸長している。ちなみに総得点で第2位だった佐藤正午『熟柿』(KADOKAWA)は3月第5週の文芸書ランキングではトップテン外だったが、4月第1週では第9位に浮上している。
受賞後の各書店での店頭展開により、今後も『イン・ザ・メガチャーチ』の売れ行きは伸びていくものと思われる。本屋大賞受賞と売り上げの関係を見るには、出版取次のトーハンが毎年発表している年間ベストセラーの総合部門を確認するのが良いだろう。直近のデータを確認しておくと、2025年年間ベストセラーでは阿部暁子『カフネ』(講談社、本屋大賞2025受賞、2024年5月発売)が第2位に、2024年年間ベストセラーでは宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社、本屋大賞2024受賞、2023年3月発売)が続編である『成瀬は信じた道をいく』とともに第3位に、2023年年間ベストセラーでは凪良ゆう『汝、星のごとく』(講談社、本屋大賞2023受賞、2022年8月発売)が第3位にランクインしている。重要なのは文芸以外のジャンルも含めた総合部門でいずれもトップスリー以内に上がってきていることで、本屋大賞が持つ影響力の強さをデータの観点から改めて認識することが出来る。
今回の受賞作である『イン・ザ・メガチャーチ』はいわゆる“推し活”を題材とした小説で、世代も立場も異なる三人の視点人物から“推し活”ビジネスを巡る光と影が見えてくる。いま「“推し活”を題材にした」と書いたが、この小説は“推し”を愛でる行為だけではなく、現代社会において「信じる」という行為が持つ陰と陽の部分それぞれを炙り出した作品であるとも言えるのだ。『本屋大賞公式ファンブック』(日本能率協会マネジメントセンター)内のコラム「受賞作品から見える社会」で武田砂鉄氏も同じようなことを言っているが、本屋大賞の受賞作すべてがその時代の空気を必ずしも直接的に反映しているわけではないだろう。だが『イン・ザ・メガチャーチ』に関しては歴代の受賞作の中でも同時代性を一際強く感じる作品であることは確かだ。
それを示しているのが『本の雑誌増刊 本屋大賞2026』(本の雑誌社)に掲載されている「全国書店員からの推薦の声」だろう。「現代の宗教とマーケティングが交差する“メガチャーチ”という舞台に、朝井リョウはまたしても時代の潮流を鋭くすくい上げています」(黒岩秀利/ビッグワンTSUTAYAさくら店)、「この作品は推し活の構造と、推し活にハマる人々を細部にわたって描いているが、それは日本の縮図となっている」(中目太郎/HMV&BOOKS OKINAWA)など、同作が現代社会の全体像を投影したものであると捉えるコメントが多かった。
そもそも本屋大賞のコンセプトは全国の書店員が一年間に出た本の中から「いちばん!売りたい本」を投票で決めるというものだ。『イン・ザ・メガチャーチ』への推薦の声でも幾つか同じようなコメントがあったが、それは“推し活”を仕掛ける側と享受する側、双方の心理に通ずる部分も少なからずあるだろう。書店員が“推し本”を決める賞で“推し活”が持つ負の面に光を当てる作品が一位を獲得するという、ウロボロスの環のような構図を作り出してしまうところにこそ『イン・ザ・メガチャーチ』という作品が持つ魔力があるのではないだろうか。その魔力がどこまで多くの読者に届くのか、今後も観察していきたい。