寿司こそが“最強のビジネス”である理由とは? ながさき一生「日本最大の輸出コンテンツになり得る」

ながさき一生『最強の寿司ビジネス』(中公新書ラクレ)

 日本人にとって馴染みの深い「寿司」。特に近年では、海外から注目を集める日本食としても知られ、多くの外国人が“本物”の寿司を求め、日本にやって来る。

 そんな寿司業界の可能性や将来性について触れたのが『最強の寿司ビジネス』(中公新書ラクレ)だ。今回は著者であり、株式会社さかなプロダクション代表のながさき一生に、「寿司業界」の変遷や寿司が世界中の人に愛される理由、日本経済の未来を照らす国民食として成長が見込まれる背景について話を聞いた。

平成・令和の寿司業界を支えた「大衆化」の歩みと「システム化」の流れ

ながさき一生氏

――平成から令和にかけて、寿司業界はどのように変遷してきたのでしょうか?

ながさき一生(以下、ながさき):寿司の歴史を辿ると、江戸時代の「屋台文化」に遡ります。もともと屋台文化として始まった握り寿司は、戦後を経て「町のお寿司屋さん」という店舗形態が定着し、昭和の時代における寿司文化を支えてきたのです。

 大きな転換期が訪れたのは、平成に入る直前の1980年代後半のこと。この時期より前は、小僧寿しや京樽、茶月といった「持ち帰り寿司チェーン」が台頭し、市場を牽引しました。しかし、この頃になると「寿司ロボット」が開発され徐々に広がっていきます。そして、1990年代後半にもなると、スーパーマーケットのバックヤードにも「寿司ロボット」が広がっていき、日常的な寿司はスーパーで買うものへと変わっていったのです。

 他方で、回転寿司の歴史を遡ると、1970年の大阪万博で元禄寿司が“回転寿司”を披露して世界的に広まり、1980年前後には今の業界を支えるくら寿司やスシローが相次いで創業し、平成の中期にはかっぱ寿司が全国的に100円寿司を展開するなど、一気に大衆化が進みました。

――「大衆化」の裏には、やはりテクノロジーの進化があったんでしょうか?

ながさき:まさにその通りで、「寿司ロボット」こそが、平成時代の“寿司大衆化”における影の主役です。ロボットの普及によって、職人がいなくても、一定の品質でシャリが握れるようになったことで、スーパーや回転寿司が爆発的に普及する基盤が整いました。

 そして平成中期以降は、回転寿司の「システム化」と「エンターテインメント化」が加速しました。くら寿司は2000年代前半からタッチパネルや皿の回収システム、職人が中心にいる従来の「O型レーン」ではなく、ファミリー層向けのボックス席を設けた「E型レーン」を導入し、回転寿司を“家族で楽しむレジャー”として定着させる大きな役割を果たしたのです。

 一方で、スシローは裏側の「データ管理」を徹底し、「15分後にどのネタがどれだけ売れるか」を常に集計・分析し、廃棄を減らしつつ鮮度の良いネタを提供する企業努力を重ねてきました。

 令和に入ると、魚べいのような「回らない回転寿司」が登場します。「85%のお客様は皿を取らずに注文している」という統計に基づき、あえてレーンを回さずに、廃棄を減らしネタの鮮度を保つ「特急レーン」が支持されるようになりました。

オールジャパンで寿司の真価を世界へ届けていく重要性

――『最強の寿司ビジネス』という表題にあるように、なぜ「寿司」が日本を救う鍵になるとお考えですか?

ながさき:寿司は単なる食べ物を超えた、日本最大の「輸出コンテンツ」になり得ると確信しているからです。世界中で「ピザならイタリア」「ワインならフランス」という確固たるブランドがありますよね。同様に、「寿司といえば日本」というイメージも、すでに世界中で完璧に定着しています。しかも、寿司は「美味しい」だけでなく「健康的(ヘルシー)」という極めてポジティブな印象を伴っています。

 それなのに、日本国内に目を向けると、実は寿司のポテンシャルを十分に使い切れていない現状があります。例えば、全国各地にラーメン博物館や餃子のテーマパークはあるのに、寿司の文化を総合的に伝える拠点は驚くほど少ない。つまり、まだまだ「伸びしろ」があるわけですね。

 寿司がビジネスとして最強である理由は、波及効果の広さにあります。寿司が売れればお米が売れる。醤油やお酢といった調味料も売れる。そして、多種多様な魚も売れる。また、最近では肉寿司もありますからお肉も売れ、付け合せにもなる野菜も売れていく。さらに、海外では「寿司に日本酒」というペアリングも定番ですから、日本酒も一緒に売れていきます。

 このように、寿司というプラットフォームを通じて、日本の農業、水産、調味料、酒、職人の「技術」や「おもてなし」というサービスまでをパッケージで世界に売ることができるのです。寿司を食べに来るインバウンドツアーのような体験型コンテンツとしての価値も含め、寿司を軸にした「オールジャパン」の戦略を立て、国としてもっと戦略的に押し出せば、日本の地域経済を活性化させる大きな鍵になると考えています。

――グローバルで「Sushi」が受け入れられている理由をどう考察していますか?

ながさき:いくつかポイントがありますが、ヘルシーなイメージが定着したのは大きいと思います。1980年代のアメリカでは、ファストフードのようなジャンクな食事が溢れていました。そんななかで、油を使わず魚とお米で構成された寿司が、セレブ層に「健康的で洗練された食事」として受け入れられたのがきっかけです。その後、カリフォルニアロールに代表されるように、現地の人々が食べやすい形へと進化したこともグローバルに浸透していった要因の一つです。

 また、寿司の素材として用いる「米」「酢」「魚」は世界中で手に入りますし、特に魚は「これを使わなければいけない」という決まりがないので、その土地のものも活用できます。つまり、特定の地域でしか作れない料理ではなく、どの地域でも作れるという「柔軟性の高さ」も理由として挙げられるでしょう。

 また、寿司は基本的に「酢飯の上に何かが乗っていれば成立する」という特徴から、許容範囲が広く、それも海外で受け入れられた要因の一つです。さらに、各地の食文化や嗜好に合わせたローカライズが容易だったことも、短期間で世界を席巻できた理由だと考えられます。

寿司が身近すぎるがゆえに、歴史や由来を学ぶ機会がない

――ラーメンや餃子のテーマパークがある一方で、寿司の拠点が少ないのはなぜでしょうか。

ながさき:日本人にとって、あまりにも寿司が当たり前の存在になっているからかもしれません。コンビニでもスーパーでも買えるし、本当に身近にありすぎるので、あえて「寿司を学ぶ」という機会を設けてこなかった。例えば、かんぴょう巻き、鉄火巻き、納豆巻きなどの巻き寿司は、それぞれに成り立ちの歴史が違います。しかし、それを知らずに食べている日本人がほとんどです。

 また、業界の構造も影響しています。ひと口に「寿司業界」と言っても、高級な寿司店、町の寿司屋、回転寿司チェーン、スーパーの惣菜など、それぞれが全く別の世界として分断されており、許容範囲が広い業界だからこそ「寿司文化を伝えよう」というまとまりが作りにくいという側面があるんですね。

 でも、これはすごくもったいないと個人的には感じていて。義務教育や地域教育の中で、世界に誇る日本のコンテンツとしての寿司を学び、その奥深さを再認識する。そうすることで、あらためて寿司の“凄さ”を認識し、世界に対して自信を持って発信できるようになるのではないでしょうか。

――これからの時代、「寿司職人」としてのキャリアを考えるうえで大切なことは何ですか?

ながさき:職人の世界も、大きな転換期が訪れていると思います。寿司ロボットが進化し、均一なシャリ玉が誰でも作れるようになった時代に、人間である職人は「目の前のお客様を喜ばせる力」が問われてくるでしょう。単に寿司を握るのではなく、お客様とのコミュニケーションを通じて、期待を超える体験を提供する。こうした人間味にこそ、ロボットには代替できない価値が宿ると考えています。

 また、現在は「東京すしアカデミー」のようなスクールで短期間に技術を習得し、すぐに海外などへ飛び出すという選択肢もあります。寿司を握る技術はもちろん、人を喜ばせるというスキルは、世界中で通用する大きな武器になるでしょう。さらに海外では日本の職人というだけで高い価値が付くのも事実です。

 とはいえ、海外で成功するためには現地の言語や文化を理解し、それに加えて魚やペアリングの知識など、自分の強みを掛け合わせていくことが肝になるのではないでしょうか。

日本を元気にする「寿司の底力」

――日本が「寿司の国」としての主導権を守り続けるため、国や業界はどのようなことに取り組むべきなのでしょうか。

ながさき:フランスのワインが地域や製法を厳格に管理してブランドを守っているように、日本も「江戸前寿司」や寿司の伝統的な技法に対して、何らかの知的財産的な保護や認証制度を設計・活用すべきだと思います。

 大切なのは、多様性を許容しつつも「源流(オリジナル)はここにある」というブランディングと保護で、そのことを世界に向けて明確に示していくこと。「源流はこれだ」という基準を明確にするとともに、日本の米や酒、調味料、魚をセットで提供する「ジャパンクオリティ」の寿司屋を、戦略的に海外展開できるよう支援することも不可欠です。

 海外の寿司店において、日本産の食材が当たり前に使われるようなサプライチェーンの構築を国が支援し、「寿司を食べることは、日本の文化に触れること」という認識を広めていく。このように、「保護」と「攻め」の両輪を回すことで、世界中で多様化する寿司文化を認めつつも、その源流には日本の技術や品質があるという構造を維持していくことを、業界全体で取り組んでいくのが重要だと考えています。

――これから寿司業界が発展していくうえで大事なポイントを教えてください。

ながさき:私たちがこれから向き合わなければならないのは、「地球環境との共生」です。気候変動によって、今まで獲れていた魚が獲れなくなったり、逆に獲れるようになったり、産地が変わったりしています。「この魚はここで獲れる」という固定観念をアップデートしていかなければなりません。

 寿司の素晴らしい点は、どんな魚でも酢飯と合わせることで美味しくいただけること。そして、その時々の旬や獲れる魚に合わせてネタを変えられる「柔軟性」にあります。サステナブルな消費を見据えると、これまで未利用魚・低利用魚とされていた魚にも着目し、新しい寿司の形を創造していくことや、培養魚肉などの新しいテクノロジーの結果生まれてくる食材の活用なども、将来的な選択肢に入ってくるでしょう。

 日本の周りには3,000種類以上の魚がいると言われています。私たちがまだ知らない、寿司ネタになり得る魚はまだまだ多く存在するわけですね。伝統を守る一方で、時代や環境に合わせながら、常に新しさを取り入れていく。そうした「変化し続ける伝統」こそが寿司の本質であり、これからも世界中を驚かせ、日本を元気にし続ける源泉であると信じています。

■書誌情報
『最強の寿司ビジネス 日本経済の未来を照らす国民食』
著者:ながさき一生
価格:1,100円
発売日:2026年3月9日
出版社:中央公論新社
レーベル:中公新書ラクレ

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