『月刊ぴあ』の復活が示す、新たな雑誌の最適解 紙とスマホの融合で生み出した「とぶ」体験
4月9日のAmazon売れ筋ランキング「本」部門で8位にランクインしていたのが、『月刊ぴあ とぶ!ぴあ 4 April-2026』(ぴあ株式会社)である。2011年に休刊となったエンタメ情報誌『ぴあ』が、装いも新たに復活。広く注目を集めているのが、8位という高順位からも伝わってくる。
元々の『ぴあ』は、1972年に創刊されたエンターテイメント情報誌である。映画・コンサート・演劇・展覧会といったイベントの情報が掲載されており、1980〜1990年代には各種イベントの基礎情報を得るための媒体として莫大な部数が発行されていた。しかしチケット販売情報がインターネットへとシフトしたため、販売部数が低迷。2011年7月の『ぴあ首都圏版』の刊行をもって休刊となった。現在の20〜30代にとっては、「ぴあ」といえば雑誌というより「チケットの予約販売やイベント運営をしている会社」というイメージの方が強いのではないだろうか。
紙のザッピングとスマホの利便性を融合
その『ぴあ』が原点回帰、雑誌のスタイルで新装刊を果たした。表紙はもちろん及川正通! 御年87歳のはずだが、あの特徴的な点描は健在で、今号でもゴジラと吉沢亮を描いている。この表紙を見るとやっぱり「あ〜、『ぴあ』だな〜」という気持ちになってしまう。
新装刊に際してプラスされた新基軸が、スマホとの連動である。公開・公演スケジュールのリストにはQRコードが付いており、それを読み込むことでスマホ上でより詳細な情報へとジャンプすることができるのだ。このジャンプ機能がついているからこそ、誌名が『とぶ!ぴあ』なのだろう。実際に「とんで」みたのだが、例えば映画であればQRから詳細にとぶことで、誌面では伝えることのできない動画での予告編の確認まで移動することができ、そのままチケット購入まで進める。途中でかなり広告が挟まるのが気になるが、動線の設計としてはわかりやすくてスムーズだと感じた。このQR掲載はチケットぴあのアプリとも連動しており、そちらのアカウントがあればより効率的にチケット購入ができるようになっている。
『とぶ!ぴあ』は裏表紙側からも読むことができ、そちらから読むと各ジャンルのニュースのあとに特集という、普通の雑誌っぽいページ構成になっている。今号の特集は「世界が恋する"日本キャラクター"の未来」と題されており、今年の劇場版の公開に合わせた『名探偵コナン』、同じく映画版の公開が近づいている『スーパーマリオ』、そして昨年12月に羽田空港にモニュメントが登場した『ゴジラ』について、関係者にインタビューした記事が掲載されている。
特集の後ろには、映画・演劇・展覧会・クラシックのコンサート・ライブについて、各ジャンルの目利きが現在推している作品を紹介したレビューのページが配置されている。もちろん紹介されている作品・イベントにはQRコードが掲載されており、レビューを読んで気になったものはそのままチケット購入へと進むことが可能。レビューの書き手である「水先案内人」も幅広い人選で選ばれており、『ぴあ』の底力を感じる構成となっている。
検索では辿り着けない「未知」と出会う、雑誌の最適解
一読してしみじみ思ったのが、「ああ、イベント雑誌を眺めるのってこういう感じだったなあ……」という懐かしさである。パラパラとめくっているだけで、ランダムに情報が目に入ってくる。知らないミュージシャンのライブや、チェックしていなかった特集上映や、自分にとってまったく未知のジャンルである演劇やクラシックの情報が、ぼんやり眺めているだけで視界に入ってくるのである。「なんだこれ?」と思って添えられている紹介文を読めば、なんとなく概要が頭に入ってくる。このランダムに情報が頭に入ってくる感じが、なんだか懐かしくも新鮮なのだ。
昔と違って今はスマホが手元にある。なので紹介文を読んだイベントに興味が湧いてくれば、そのままもうちょいスマホで検索……となるが、その時に紙面の脇に印刷されているQRが効いてくる。検索のための単語を打ち込まなくてもより詳細な概要にジャンプでき、チケットを購入することもできるのだ。雑多な情報が詰め込まれたイベント専門誌のランダム性・ザッピング性と、スマホの検索性・利便性をうまく絡めた、見事な動線設計だと思う。
実際、雑誌特有のランダム性を有効活用することは、『とぶ!ぴあ』の編集方針でもあったようだ。誌面には「『ぴあ』がずっと大切にしてきたのは、(中略)たくさんのエンタメ情報を眺める中で生まれる"偶然の出会い"です」「ネットで検索すれば、好きなものの情報はすぐ見つかる。(中略)でも『好きかどうかまだわからないもの』とは、なかなか出会えません」「ページをめくる手が止まった瞬間──それが月刊ぴあ『とぶ!ぴあ』×ぴあアプリ/webが届けたい体験です」と書かれており、誌面をパラパラと眺める中で「これなんだ?」となってそのままQRで「とぶ」体験は、編集部によって設計されたものだったことがわかる。
つまり、今回自分はまんまと『ぴあ』編集部の手のひらの上で遊ばされてしまったことになる。意図通りの遊び方で遊んでしっかり面白かったのだから文句なし。というか、「ついパラパラと眺めてしまう密度感を設計し、掲載されているトピックについて専門家によるちゃんとした解説が読め、気になる商品はそのままスマホで即購入できる」という設計は、現代における雑誌の作り方の最適解の一つなのではないだろうか。QR連動の誌面設計自体は極端に新しいものではないが、専門家による堅実な解説や、危なげやノイズのないインタビュー、そして誌面全体にギチギチに情報が詰まっていて読むだけで宝探しのような面白さがあるレイアウトにQRという新要素を加えた誌面の作りからは、『ぴあ』の持つ地力の強さが感じられる。
というわけで、新装刊された『ぴあ』は、雑誌とweb・スマホの連動の理想といえる内容だった。雑誌とwebはお互いにシェアを食い合う存在とされ、また現在はwebの圧勝といえるような状態になっているが、エンタメ情報誌という媒体の強みをフル活用すれば、どちらの良さも引き立て合うことができるのだ。かつての『ぴあ』を活用していた世代には懐かしく、若い世代には新鮮に感じられること請け合いの本書は、ぜひ現在販売中の「紙の雑誌」の形で手に取っていただきたい。
■書誌情報
『月刊ぴあ とぶ!ぴあ 4 April-2026』
著者:ぴあ
価格:880円
発売日:2026年4月6日
出版社:ぴあ