ジョジョ第7部『スティール・ボール・ラン』は最高傑作か、問題作か? 荒木飛呂彦の「アメリカとは何か?」という問い

 Netflixでアニメ化され、3月19日に1st STAGEが配信されたことで、『ジョジョの奇妙な冒険第Part7 スティール・ボール・ラン』(集英社、全24巻。以下『SBR』)に対する注目が高まっている。

 本作は荒木飛呂彦の人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』(以下『ジョジョ』)の第7部として2004~2011年に連載された。

 舞台は1890年のアメリカで、これまでの『ジョジョ』に登場した登場人物と似た名前のキャラクターが多数登場する。その理由について荒木は、コミックス第2巻のカバーに掲載されたコメントで「彼らの先祖と考えるかあるいは、パラレル・ワールドと考えてください」と書いている。

※以下、ネタバレあり。

 下半身不随で車椅子生活をしている元一流騎手のジョニィ・ジョースターは、ジャイロ・ツエッペリの操る「鉄球」の力で一時的に歩けるようになったことがきっかけで、ジャイロの後を追う形で、北米大陸横断レース「スティール・ボール・ラン」に参加する。

 やがてこのレースは、北米大陸の各地に散らばる奇跡を起こす力を宿した「聖人の遺体」を集めるために、アメリカ大統領のファニー・ヴァレンタインが仕組んだものだと判明する。「聖人の遺体」の右腕を手に入れたジャイロとジョニイは、大統領の刺客から追われる立場となる。

 物語は訪米大陸横断レースと「聖人の遺体」の争奪戦が同時進行で描かれていく。そして、精神の力「スタンド」を操る敵とジョニィとジャイロは戦うことになるのだが、ジョニィも自分の爪を回転させて弾丸のように飛ばす「牙」(タスク)というスタンドに目覚め、ジャイロの指導の下で「牙」を進化させていく。

 面白いのはアクションの見せ方。ジャイロの「鉄球」やジョニイの「牙」が飛び道具で、どのタイミングで発射するかが勝負の肝となるため、銃撃戦のように描かれている。

 19世紀のアメリカが舞台の本作は西部劇のようで、これまでの『ジョジョ』とは違う手触りとなっていた。

 また、「スタンド」は、第3部から登場した『ジョジョ』を象徴する精神エネルギーが荒木飛呂彦の超絶作画によって可視化された超能力だが、『SBR』では当初は登場しなかったため、鉄球を用いた回転の技術が、スタンドに変わる異能力となるかと思えた。この回転の技術は『ジョジョ』の1~2部に登場した「波紋」を彷彿とさせるものがあった。

『ジョジョ』は時代ごとに変節があるのだが、80年代末に連載された1~2部は登場人物の身体も巨体で鍛え抜かれおり、とても肉体的だった。逆に、スタンドが登場した第3部以降は、頭脳バトルが中心となっており、登場人物の身体も痩せたスタイリッシュなものへと変わっていった。対して『SBR』は、主人公のジョニィが下半身不随の車椅子姿で登場し、馬に乗るという行為が重要なモチーフとして登場したため、再び肉体の話に回帰したように見える。

 しかしその後、「スタンド」も登場し、異能力バトルの連なりで話が進むという構成は踏襲された。『SBR』の第10巻では、スタンドの定義が改めて書かれており、「波紋」や「鉄球」については、「スタンドという才能に近づこうとする「技術」と言えるだろう」と語られている。おそらく作者は、ここで『ジョジョ』は、スタンドの物語だと再定義したのだろう。言い変えるならばそれは、スタンドに作者が一番描きたいテーマが宿っていると言える。

 たとえば『SBR』には、大統領の操る「Dirty Deeds Done Dirt Cheap」(いともたやすく行われるえげつない行為、以下「D4C」)というスタンドが登場する。ヴァレンタインにはアメリカ大統領としての崇高な理想があり、そのために「聖人の遺体」を手に入れようとしている。そして理想を実現するためなら躊躇なく残酷な選択をおこなう。

 「D4C」はその理念が具現化されたスタンドだ。「D4C」は、並行世界(パラレル・ワールド)を行き来する能力で、大統領が致命傷を受けても、並行世界の大統領に記憶を継承させることで、入れ替わることができる。また、並行世界の人間と基本の世界(「聖人の遺体」が存在する世界)の人間が接触すると両者が崩壊するため、並行世界の住人を爆弾のようにぶつけてくる。

 並行世界を行き来できるスタンドを持つ大統領は『ジョジョ』の並行世界と言える『SBR』を象徴する存在だと言えるが、ドナルド・J・トランプ大統領が率いるアメリカがイランに戦争を仕掛けた2026年に『SBR』を読むと、現実と地続きの物語だと感じる。

 『SBR』の連載がスタートした2004年は、2003年にアメリカが起こしたイラク戦争が泥沼化し始めた時期で、「世界の警察」として振る舞うアメリカとジョージ・W・ブッシュ大統領の行動が、当時も問題視されていた。おそらく『SBR』の背後には、アメリカについて改めて考えたいという作者の思いがあったのではないかと思うが、再び本作に注目が集まっているのは「アメリカとは何か?」という本作の問いが、世界中の人々にとって他人事ではないからだろう。

 アニメ版『SBR』の2nd STAGEは、今年の秋に配信される予定だが、アメリカをめぐる状況が、今より少しでもマシになっていることを祈る。

©︎LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社・ジョジョの奇妙な冒険SBR製作委員会

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