竹宮惠子、魚豊らが考える、アニメ化の理想系とは? メディアミックスの改変問題に迫る「TAAF2026」レポ
漫画からアニメへ。今も主流のメディアミックスの形だが、その際に起こる原作からの”改変”が時に話題になる。漫画家の竹宮惠子の代表作のひとつ『地球へ…』も、1980年にアニメ映画化され2007年にはTVアニメ化されたが、それぞれに原作とは異なったアレンジが施された。そのことを原作者はどう感じていたのか? 3月13日から16日まで開催された「東京アニメアワードフェスティバル2026」に、過去に優れた業績をあげたアニメ関係者を対象にした功労賞を贈られた竹宮が登壇し、アニメ化への思いを語った。
必要な改変だった
「自分が主張するストーリーの流れを重要視すると、映画としてのまとまりがうまくできないと思っていたので、口を出す気はありませんでした」。3月15日に実施されたTVアニメ『地球へ…』の上映後、ゲストとして登壇した竹宮は、アニメ映画『地球へ…』の設定や展開が、原作とは異なるものになっていたことに理解を示した。
「映画は尺が長くない訳で、その中にすべてを収めることはできるのでしょうかとなって、いろいろと説明する上で必要な改変だったと思っています」と竹宮。確かに『地球へ…』という作品は、長い時間の中で数世代にまたがる人類と超能力を持つ新人類の「ミュウ」との関係を描いていて、その中に登場する大勢の人物が複雑に絡み合う展開もあって、理解するために読み込む必要がある作品だった。
マザーと呼ばれるスーパーコンピュータによって出生から家族からすべて管理された人類は、14歳になると「目覚めの日」を迎えて記憶をすべて書き換えられ、次のステップへと向かうことになっている。そうした人類の中に、いわゆる超能力を使う因子を持った新人類が生まれることもあり、マザーは検査を通して「ミュウ」と名づけた新人類を見つけて排除していた。一方で、ミュウの方もソルジャー・ブルーを長として仰ぎ、集団を作ってマザーの支配に抵抗していた。
そうしたミュウの集団に、「目覚めの日」の検査でとてつもない異能の力を発言させたジョミー・マーキス・シンという少年が加わることになって始まる本格的な反抗の物語が、『地球へ…』という作品の核になっている。漫画の連載は1977年から「マンガ少年」という月刊の少年マンガ誌でスタート。かつて手塚治虫が寄稿していた「漫画少年」を復活させたようなタイトルだったこともあり、少女漫画の世界で活躍していた竹宮も、「1も2もなく参加」したそうだ。
『地球へ…』原作と映画、TVアニメの違い
漫画の連載は1980年5月号まで続いたが、アニメ映画の公開は同じ年の4月26日とほぼ同時期で、制作が始まった時はまだ完結していなかった。竹宮によれば、恩地日出夫監督と「ラストはこんな感じになるというお話をしました」とのこと。出来上がった映画は、「言葉でしっかりと説明してくれていて、非常に良かったと思いました。1回見ただけで分かりました」。展開の中でセリフなどに乗せて状況が描かれているアニメならではの良さを感じたようだ。
「恩地監督は、キャラクターではキースが1番理解できるとおっしゃっていて、それでキースが中心になった感じです」とも。ミュウを率いるようになるジョミーのライバルで、人類側のリーダーとなるキースの運命は、原作の漫画とアニメ映画で違いがある。気づきを得て自分個人としての意思を持ちようになり、自発的に最後を選ぶという点で、アニメ映画の方がややカッコ良くなっているとも言える。
キースの声を人気俳優だった沖雅也が声を演じたことも、映画の中での存在感を増した印象。沖に限らずソルジャー・ブルーは志垣太郎、ジョミーは井上純一、フィシスは秋吉久美子と実写の人気俳優が起用されて関心を呼んだ。アニメ映画への声優でない役者の起用は今でも話題になるが、『地球へ…』はその走りのような作品だった。竹宮は、「俳優の方々がやっていただいたこともあって、すごく重厚な感じがしました。恩地監督のおかげです」と評価し、恩地監督への感謝を口にしていた。
一方、2007年のTVアニメ版『地球へ…』はジョミーを斎賀みつき、キースを子安武人、ソルジャー・ブルーを杉田智和、フィシスを小林沙苗と、この頃既に人気だった声優陣を揃えて話題になった。「こういうのが、アニメの大衆化なのかもと思いました」と竹宮。アニメ作品を声優で見るファンも増えてきた中で、そうした期待に応えた作品だったと言えそうだ。
アニメ映画の公開や連載の終了から27年が経ってのTVアニメ化については、「この時期にまた『地球へ…』がアニメになるんだと、私自身も驚きました」と竹宮。「ヤマサキオサム監督が思いがけないチャンスを持って来て下さったと感謝しています」と話し、上映の場に居合わせたヤマサキ監督に向けて改めてお礼の気持ちを向けていた。
このTVアニメ版もまた、アニメ映画版とは違った"改変”が施されている。これについて竹宮は、「緊張しました。生んだ子が今度はどうなるんだろうというドキドキ感がありました」と、毎週の放送を見ながら思っていたことを明かした。「深いところまで説明するためにキャラクターの設定を変えてあります。すべての関係者が巧く絡んでいくように描かれていると思いました」。
TAAF2026の上映会場に居合わせたヤマサキ監督によれば、「行き詰まると先生に相談していました」とのこと。「難しい話で、誰もが読めるものではない原作をわかりやすく解いてくださったのはありがたいことです」と話す竹宮も含め、良いコミュニケーションの成果が出たTVアニメ版だったと言えそうだ。
それぞれの時代や媒体に合わせてアレンジが施されていた『地球へ…』。もしも3度目のアニメ化があったとしたら、どのようなものになるかといった問いに、「専門ではないので全然考えられません」と答えた竹宮だが、「アニメの力というものはすごく分かっています。全世界を駆け巡ることができます。あと、アニメ映画でもTVアニメでもそうでしたが、分かりやすさを作ることができます。あの短さで、漫画ではそうはいかないことができる道具でもあります」とアニメの力は強く認識している様子。「チャンスがあれば良いと思います。私は描く苦労をしなくて良いので」と話して、話があれば応じる姿勢を見せた。
『ひゃくえむ』『チ。』魚豊が原作・脚本部門を受賞
TAAF2026では、功労賞以外にもアニメオブザイヤーとしてアニメ作品やクリエイターを表彰している。その中で、原作・脚本部門を受賞した漫画家の魚豊も、漫画のアニメ化に関する思いをコメントとして寄せていて、竹宮のトークと重なるところがあった。
「私は、メディアミックスにおける幸福なことは、原作の完全な再現や小ネタへの目配せではなく、個性ある作家に再解釈、改変してもらうこともあるというふうに考えています。むしろそれが高次元で達成された時こそ、作品における最大の達成となります」と魚豊。クリエイティビティが発揮された改変をポジティブに捉えているようだった。
「歴史上、産業構造の要請により、人の心の濃度が薄い創作がされ、そのようなメディアミックスが無配慮な改変を行い、それにより作家や観客が、それどころか何より制作スタッフまでもの人が深く傷ついた例は数多あるかと思います。それは悲劇で擁護のしようもありません。しかし、だからこそ今回、原作への配慮と理解を最大限考慮していただいた上で水を差し替えていただけたこと、その勇気とセンス、それにより原作がまた一段と青々しくなったこと、このようにもう一度光を当てていただけたことは、何より希少で有意義な出来事だと思います」。
こうした魚豊や竹宮ら原作者の理解と、アニメの現場の探求の先に、原作付きでありながら新鮮さがありオリジナリティも感じられる作品が生まれてくると言えそうだ。