Adoが語る、“閉じこもっている誰か”へのメッセージ「必ずしも立ち向かう必要はないと思うし、出てこなくたっていい」
Ado初となる自伝的小説『ビバリウム Adoと私』が発売された。幼少期からデビューに至るまで、ライブの舞台裏、そして不登校だった時代や家族のことまで――これまで語られてこなかった彼女の人生を、作家・小松成美が3年に及ぶ取材を経て書き上げた。
綴られているのは、出来事の年表ではなく、その時々にAdoが抱えていた感情だ。クローゼットに閉じこもり、何者でもなかった「私」から2020年代を代表するアーティストとなった現在に至るまで、本書はその歩みを辿る。たゆまず歌い続けてきた「今のAdo」は何を思うのか。発売を前に、心境を語った。
小説に携わって気づいたもの
ーー自身の自伝的小説が発売すると決まった際の気持ちを教えてください。
Ado:今まで語ってこなかった部分も多く書いていただいたので、私の人生をたくさんの人に知ってもらうことになります。いよいよ発売できると思うと緊張もありますし、ファンの皆さんや、「うっせぇわ」のイメージがある方など、いろんな方が手に取った時にどんな反応をするのかな、というのは気になります。
今まで語ろうとしてもタイミングが難しかった話もたくさんあるので、自分のことを知っていただく機会をいただけてうれしいです。
ーー小説という形の表現に携わってみていかがでしたか。本書は小松成美さんによる文で構成されていますが、他者の視点が入ることによる発見はありましたか。
Ado:小説という形が、いちばん私というものをたくさんの人に見てもらえる形だったのかなと思いますし、自分の自伝的小説が出るのも面白いなと思いました。
小松さんだけでなく、小説には所属事務所社長・千木良さん(クラウドナイン代表取締役社長・千木良卓也)から見た私の姿や、母から見た「娘としての私」など、いろんな人たちの視点が入っています。
他者の視点が入ることで私の見え方も変わってきますし、それが面白いところでもあります。完成したものを読んだ時も「私ってこう見えていたんだ」という、いろんな自分を発見できたうれしさがありました。
ーー小松さんとお話しする時間はどんなものでしたか。話す中で思い出した過去のエピソードや、取材の中で印象的だったことがあれば教えてください。
Ado:小松さんには何度もお時間をいただいて、繰り返し繰り返し、すごくボリューミーな内容をお話しさせてもらいました。結果的に自分の人生を振り返ることになったので、家族の話や幼少期の気持ち、その時に子どもながら考えていたことなど、人生の細かいところまで振り返ることができすごく濃密な時間でした。
印象的だったことは本当にたくさんありますが、学生時代の話をする中で、「あの時、こう思っていたんだな」「あの時、悲しかったんだな」と、当時感じていたのに無視していた気持ちにまた触れたりもして。大人になってから振り返る人生は、その節々で自分を形成する大事な時間だったのだなと感じる瞬間が多かったです。
ーー今まで心を揺さぶられた本や漫画はありますか。
Ado:もともと私はヘレン・ケラーやウォルト・ディズニーといった、歴史上の人物の自伝・伝記漫画がすごく好きでした。中でもココ・シャネルの話が特に好きで、シャネルの歴史に触れたり、生き方に影響を受けたりもしました。「人はこうやって時代を作るんだな」と感じる時間が、誰かの実際の話に近いものを漫画という形で触れるのがすごく好きでした。
23歳のAdoになって
ーー『ビバリウム』というタイトルに込めた思い、このタイトルにした理由を教えてください。
Ado:本来の「ビバリウム」には、生き物、爬虫類や両生類のための生息環境を再現した、過ごしやすい空間を作った箱庭、みたいな意味合いがあると思います。その「箱庭」や「過ごしやすい環境」というところが、私がずっとこもって歌ってきたクローゼットや、子ども部屋など自分とすごく合っているな、私を表しているなと思いました。ボーカロイドや歌い手、ニコニコ動画を毎日見て聞いて、好きなものに囲まれて好きなことをしていたので、客観的に見ると「ビバリウムの中にいるみたいだな」「箱に閉じこもっているみたいだな」と思い、この単語がぴったりかなと思ってつけました。
ーー小説では「早く大人になりたいと願っていた」と綴られています。当時思い描いていた理想の大人像はどんな人でしたか。今、23歳になって理想には近づけていますか。
Ado:私にとっての理想の大人像は、自立していて、なんでもこなして、自分の足で立って、颯爽と堂々と歩いている姿です。抽象的ですが、それが大人の姿だと思っていました。いい意味で誰かに頼らない、できない自分じゃなくてできる自分、というのが大人だと当時は考えていました。
今、それになれているかと言われたら、なれていないところが半分かなと思います。それでも紆余曲折しながら、経験を通して考え方などいろんな面で自立してきたとも思うので、だんだん理想に近い形にはなれているのかなと。あの頃の思い描いていたままの大人になれているかと言われたら違うと思いますが、大人にはなれているのかなと思います。
ーー10代の頃は、働くことや社会に対してどんなイメージを抱いていましたか。
Ado:働いて社会に出ることは、ある種憧れでもありました。でも、社会にのまれて、働くことだけが目的になってしまって、自分を見失うんじゃないかという恐ろしさも、10代の頃は特に感じていました。
早く大人になりたいと思う反面、大人になりたくないみたいな部分もあって。子どもの私が見てもかっこいい大人になりたい、というだけで、考え方も含めて自分のすべてが大人にはなりたくない、みたいな考え方をしていました。
ーー今回の作品『ビバリウム Adoと私』を、どんな人に手に取ってもらえたらうれしいでしょうか。
Ado:ファンの皆さんはもちろん、「うっせぇわ」のイメージがある方や、名前だけ知っている方も含めて、いろんな世代の方に手に取ってもらえたらうれしいです。この本を読んで私の人生に触れて、「自分の人生、意外と大丈夫かも」と思えるような、誰かの励みになれたらうれしいです。同じような境遇だった人や、今同じような環境にいる人たちの心に寄り添えるものになれたらと思っています。
自身作詞作曲の新曲「ビバリウム」の手応え
ーー本書を元にした、自身作詞作曲の新曲「ビバリウム」もリリースされています。
Ado:私が作詞作曲するのは2回目で2曲目のリリースになります。今回の「ビバリウム」は、今の私が完全に新しく書き下ろした楽曲です。小説のタイトルにちなんで、私が私に語りかけるような、自分自身のことを書いた曲になっています。刹那的でロックな、バンドサウンドの楽曲になっています。
ーー作詞作曲は2024年10月に発売された「初夏」以来の2曲目となりますが、前回と比べてどのような手応えがありましたか。
Ado:前回の「初夏」は、高校2年生の16〜17歳くらいの時に書いた楽曲に新しく手を加えた、という部分がありました。今回は今の私が一から作った楽曲です。小説『ビバリウム Adoと私』とも重ねている部分があるので、前回とはテイストも違いますし、書きたかったこと、歌いたかったことも全然違います。今の私らしい、今の私ができるいちばん良い楽曲になったのかなと思います。
ーー仕事や制作を終え、疲れた時に自分を元気にする方法や、日常的に行っているルーティーンなどはありますか。
Ado:疲れたなっていう時は、最近ふかふかな椅子を買ったので、そこに座って時間も何も気にせずドラマや恋愛ドキュメンタリーを見たり、ゲームをしたりもします。
ーー新人歌手の注目の“歌ってみた”動画などを紹介されていますが、こうした活動はボカロや歌い手文化の発展、新人発掘のために行っているのでしょうか。
Ado:「新人発掘」と言うと、何かプロデュースをするのかな、みたいに聞こえるかもしれませんが、それよりは単純に新しい出会いをしてみたい、という気持ちが大きいです。リスナーとしてもいろんなものに触れてみたい。
光が当たることがすべて正しいとは思いませんが、隠れた才能というか、「もっと光を浴びてもいいじゃないか」と思う方たちを見つけて、感動して「もっと見てほしい」と勝手に紹介してしまう、みたいなところがあります。
私をきっかけにして、ボカロや歌い手の“歌ってみた”などの文化をもっと広げたい、というよりは、広げるきっかけの一つになれたらいいなと思ってやっています。楽しんでいるところもあるので、趣味の一環みたいな部分が大きいですね。
「好き」とは違う、「受け入れる」時間があるだけでもいい
ーー自分のことを好きになれないまま、日々を過ごしている人も多いです。今のAdoさんだからこそ伝えられることはありますか。
Ado:みんながみんな自己愛ができなくてもいいと思っています。最近は「自己肯定感を上げていこう」と励ます楽曲も多いですし、私もそういう言葉に救われた経験があります。でも、自分のことが好きになれないからダメ、なんてことはなくて。「自分のことが嫌いだな」とか「好きになりたいな」と気づけるだけでも、それは自分をちゃんと見られている証拠なのかもしれない。「好き」とは違う、「受け入れる」時間があるだけでもいいのかなと思います。私はそれを支えられる存在になれたらいいなと思っています。
ーー今、世界中のどこかで、かつてのAdoさんのように“ビバリウム”に閉じこもっている誰かがいるとしたら、どんな言葉を、あるいはどんな歌を届けたいですか。
Ado:無理をして出てくる必要は正直ないと思います。本当に怖いもの、目を背けたいものがあるなら、そこに立ち向かう勇気があるのも素晴らしいけれど、みんながみんなそうじゃない。私もそうでした。必ずしも立ち向かう必要はないと思うし、出てこなくたっていい。
ですが、自分の中の希望や、心の中にある灯りというか、たとえば「変わりたい」という気持ちがあるなら、その気持ちが夢を叶えたいというものなのか、ここから出たいというものなのか、どんな形でもいいけれど、もし小さくても光がまだ輝いているなら、その言葉や気持ちは抑えないでほしいです。
その心と、たまにでいいので話をして、向き合ってもらえたら、少しだけでも、ビバリウムの中の景色がいい意味で変わるのではないかなと思います。「外に出ましょう」とは私は言いません。自分が心の内で願う景色や小さな輝きがあるなら、その光を外の光と重ねてみても、きっと素敵なんじゃないかなと思いますね。
ーー今回の発売に伴って、ファンの皆様へメッセージをお願いします。
Ado:今回の小説『ビバリウム』も、新曲「ビバリウム」も、何かが変わるわけではなく、どちらも私自身を表したものです。特に小説の中では驚きや新しい発見、新事実みたいなところもあるかもしれませんが、私は私のままです。これからも私のままで進んでいくので、その背中を見守っていただけたらうれしいなと思っています。
ーー今年7月には初の日産スタジアムでのライブも開催しますが、そちらに向けた気持ちも教えてください。
Ado:日産スタジアムというすごく大きな会場でライブができることはとても楽しみですし、たくさんの皆さんにまたお会いできることを楽しみにしています。
■書籍情報
『ビバリウム Adoと私』
原作:Ado 著者:小松成美(KADOKAWA)
2026年2月26日(木)発売
■楽曲情報
『ビバリウム』
作詞・作曲:Ado
2026年2月18日(水) 配信
https://ado.lnk.to/vivarium_songPR
Capitol Records / ユニバーサル ミュージック