中島健人が主演に選ばれたのは必然だったーー『コンビニ兄弟』ドラマ化が示すケンティーのアイドル力

 町田そのこによるシリーズ小説『コンビニ兄弟 テンダネス門司港こがね村店』(新潮文庫nex)が、2026年春にNHKで実写ドラマ化される。報道が出ると同時に、SNSには原作ファンの間で期待の声が広がった。なかでも大きな反響を呼んだのが、主人公・志波三彦(通称:ミツ)を中島健人が演じるというニュースだ。

 「やあーん! あたしの方を見てよお!」という、コンビニでは異質とも言える“黄色い悲鳴”で幕を開ける原作。舞台となる北九州市の『テンダネス門司港こがね村店』は、日常に溶け込み、淡々と通り過ぎる場所でもある。しかし、町田そのこは「冒頭はインパクトのある一文から」と語っており、この“違和感”が物語の世界へ読者を引き込む装置として機能している。

妖精的存在だったミツを実在の男性に変える、中島健人の天性のアイドル力

 その悲鳴にも近い声たちの先にいるミツは、思わず二度見してしまうほどの麗しさを持つ店長だ。けれど、その魅力は見た目だけではない。リップの色を変えた女性客には「今日はなんだか印象が違いますね」と即座に気づき、あかぎれの痛む手で奮闘する美容師見習いの青年には「もうすっかり美容師の手だね」と寄り添う。相手を励ましながら包み込むような所作。その仕草に「ケンティーのまんま!」「絶対にハマり役」と沸き立ったのだ。

 “もしや中島を当て書きしたキャラクターなのでは?”なんて思ってしまうほどの適役。だが、実写化を受けて寄せられた町田のコメントによると、「実は私の中でミツは妖精的な存在でした。書いておきながら、実在するはずがないファンタジーだと思っていたのです」とあった。そして「ですが中島さんが演じてくださると知ったとたん、ミツがこの世に生きる生身の男性になりました」とも。

 “こんな人はフィクションにしかいない”と思わずにはいられないような人が、時折実在する。中島もそのひとりだ。彼はメジャーデビューより前から、すでに圧倒的な“アイドル”だった。ジュニア時代をともに過ごしたSixTONESの髙地優吾は、ラジオ『SixTONESのオールナイトニッポンサタデースペシャル』(ニッポン放送)で、中島が10代のころから、仕事終わりの渋谷のスクランブル交差点を「ランウェイのように歩いていた」と話していたこともあった。いつ誰に見られても恥ずかしくない自分でいること、そしてアイドルとして全員から振り返られる存在にならないと、とジュニアに入ったばかりの髙地を鼓舞したという。

 また、デビュー後もそのプロ意識は変わらない。握手会に来たファンが転んでしまったハプニングでは、咄嗟に「シンデレラ、気をつけて」と声をかけたなど、そのファンサービスの完璧さには、もはや“伝説”として語られるほど。握手会の一瞬のためにハイヒールをはいてオシャレをしてきたファンが転んでしまったことを受け、「魔法がとけないように」と考えての言葉選びはまさにアイドルの鑑だ。

 また、その温かな眼差しが向けられるのは、親しい仲間やファンだけではない。『あざとくて何が悪いの?』(テレビ朝日系)では、打ち合わせ中に立ちっぱなしだった若手スタッフへ「ずっと立っていてつらくなかった?」「ファイト」とエールを送る姿が隠し撮りされていた。他にも、事務所スタッフにさりげなくクリスマスプレゼントを用意したことを受けて、「サンタって姿見せます?」と言いのけるところも大きな話題となった。

『コンビニ兄弟』で描かれる、社会に埋もれそうな“自分”を見つけてもらえる喜び

 あまりのホスピタリティの高さに、ときには照れくささを感じる人もいるだろう。それはミツが「フェロモン店長」と揶揄されてしまうことと、中島が紹介される際に「セクシー」を多用されるのと似た構図だ。だが、やがてそれが表面的な言葉ではないと気づく。

 その照れくささの正体は、王子様のような仕草を平然とやってのけるから、だけではない。社会の波に埋もれてしまった自分という存在に気づいてもらえたことへの喜びなのだ。しかも、中島もミツも、知れば知るほど実はものすごい仕事量をこなしている。人のために努力を惜しまない。そして、多くの人たちから愛されている。そんなすごい人に「頑張っている自分」を見つけてもらえたこと。その瞬間に、誰もが心をポッと温かくなるのを抑えられないのだ。

 「でもケンティーはみんなのもの」と語ったのは田中みな実だった。芸能界の「あざとさ」のご意見番とも言える田中をも屈服させる中島の本物感。そう、中島もミツも、特定の誰かから好かれようという「あざとさ」からくるものではなく、素でみんなに優しいのだ。全員に潤いを与えるオアシスのような存在。それが「地方のコンビニ」にあるという設定こそ、この物語の面白いところだ。

 加えて、本作はタイトルの通り、ミツには「ツギ」という名の兄がいるという点にも注目だ。こちらは日焼けした顔に無精髭を生やした、ちょっぴりワイルド系の便利屋さん。ガツガツとコンビニ飯を食べる姿は食欲を刺激し、ミツの甘い気くばりとは別の角度で元気をくれる。

 「誰かの人生の欠片でも手助けできたら、いいよね」とコンビニに立ち寄るすべての人を気に掛けるミツと、「かくれんぼと宝探しがめちゃくちゃ得意」というツギ。誰もが通り過ぎていくコンビニで、ミツとツギが、自分さえ見失いそうな自分を見つけてくれる。そんな温かな物語を、「ミツが中島なら、ツギは誰が演じるのか」などと想像しながら読むのも楽しい。2026年春のドラマスタートまで、まだ少し時間がある。ぜひミツを中島健人として脳内で動かしながら原作を読み進め、オンエアの日を楽しみに待ってみてはいかがだろうか。

■書誌情報
『コンビニ兄弟 テンダネス門司港こがね村店』
著者:町田そのこ
価格:781円
発売日:2020年7月29日
出版社:新潮社
レーベル:新潮文庫nex

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