世界的ブーム「ラブブ」の新しさとは? 絵本から生まれたキャラがセレブを虜にしたワケ

 まさに世界を席巻する勢いで人気を博しているキャラクター、ラブブ(LABUBU)。香港出身のアーティスト、カシン・ローン(Kasing Lung)が2015年に発表した絵本シリーズ『The Monsters』の一員として誕生した小さなモンスターが、いまやセレブのSNSを通じて国際的なブームを巻き起こし、ファッションやカルチャーに影響を与えている。

 もともと絵本は、子どもたちに家族や友人、社会とのつながりを教え、やさしさや夢を伝える媒体として、キャラクター文化の源泉であり続けてきた。オランダの絵本作家ディック・ブルーナが1955年に生み出したミッフィーしかり、フランスの絵本作家アネット・チゾンとアメリカの絵本作家タラス・テイラー夫妻によるバーバパパしかり。その柔らかで普遍的な愛らしさで、これまでたくさんの絵本発のキャラクターたちが、世代や国境を超えて愛されてきた。

 だが、ラブブの飛躍は従来の系譜とはやや異なる。ミッフィーやバーバパパが「やさしさ」「安心感」を感じさせるビジュアルに対して、ラブブはギザギザの歯と挑発的な眼差しを持つ“少し不穏な愛らしさ“が特徴だ。その違和感がむしろSNS時代に多くの人が注目せずにはいられない「引っかかり」を生み、一気に広まったのである。

 ラブブを購入できる『POP MART』のオンラインショップは常に「再入荷待ち」の状態。実店舗でも事前にWEB抽選整理券が必要な状況が続く。だが、その入手困難さが熱狂を加速させている。

 日本では今年9月にユニクロとのコラボTシャツを発売したが、またたく間に完売となった。そして10月11日にはフランスのラグジュアリーブランド「モワナ」とのコラボアイテムが発売されるが、きっとまた「買えなかった」の声がSNS上に溢れることだろう。(参考:ユニクロもコラボした「ラブブ」、世界的ブームで最高益、快進撃の舞台裏。ポップマートCEOが明かした“キティ、ナルト”への野望

 また、人気のぬいぐるみはブラインドボックス方式で、中身は開けるまで分からないというのもヒットを誘発した。望めば比較的簡単にモノが手に入る時代に、あえて“不自由“な体験を提供する仕組みが、ラブブをただのキャラクター商品ではなく“運命的に出会う相棒“へと変えているように思う。

 そんなラブブとの出会いに魅了されたスターやセレブたちのSNS投稿が、この世界的ブームのきっかけとなったのは有名な話。その火付け役として知られるのがBLACKPINKのリサだ。アメリカの『Teen Vogue』のインタビューで「ラブブは私のベイビー」と語り、ワールドツアー『DEADLINE』では、ピンクのラブブに扮した衣装でステージに登場したことも大きな話題に。(参考:世界的大ヒットキャラ「ラブブ」の火付け役! BLACKPINKのLISAがキュートなカスタム衣装を着用

 その後もレディ・ガガやリアーナなどのスーパースターたちが、こぞってハイブランドバッグにラブブのぬいぐるみを添えたカジュアルで親しみやすいコーディネートを披露。そんなファッションアイテムとしての可能性が広がり、デザイナーのマーク・ジェイコブスを筆頭にファッショニスタたちにもラブブブームが到来したのだ。

 既存のキャラクターたちが「世代を超えて楽しむ」ものへと確立していったことに加えて、ラブブはインフルエンサーとフォロワーのボーダーを超えるカルチャーアイテムとして位置づけられた点が新しい。

 加えて、ラブブが単なる「かわいい」キャラクターにとどまらない部分も見逃せない。作者のカシン・ロンは子どものころに触れた北欧の伝説や童話から着想を得て『The Monsters』を創作したとインタビューで答えている。しかし残念ながら、この『The Monsters』を手に入れることが叶わないというのもまた「ラブブらしい」といったところだろうか。

 インタビューによるとラブブの9本の歯は、モンスターを象徴する「333」という数字を足した数に由来しているそう。さらに中身には、身近な家族や友人、子どもの姿が投影されているという。それゆえに、ラブブの表情には人間味を感じられる影や複雑さが漂うのかもしれない。

 ラブブの持つ少し不穏で愛嬌ある存在感は、SNSと消費文化が交錯する今という時代を映し出しているのだ。ラブブは北欧の森を故郷とする好奇心旺盛でイタズラ好きなエルフ。その先の物語は、ラブブを迎え入れた現代社会を生きる一人ひとりに委ねられているのではないだろうか。

 よく見ると、喜怒哀楽すべての感情が入り混じっているように感じられる。日々の気分を上げてくれるだけでなく、ときにはその日の感情に寄り添ってくれる。そんな心の相棒になってくれるラブブ。その魅力が広まるほどに、手に入りにくくなるというジレンマが生まれるのも、また嬉しい悲鳴だ。

ミャクミャクとのコラボフィギュア『LABUBU MYAKU-MYAKUストラップ付フィギュア』も

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