『成瀬は天下を取りにいく』コミカライズ版でより魅力が増す主人公たち “猪突猛進”と“滋賀愛”に注目
2024年本屋大賞など“21冠”に輝いているほか、累計発行部数150万部を超えている大ヒット小説『成瀬は天下を取りにいく』。現在はそのコミカライズ版が展開されており、8月7日には最新刊となる3巻が発売されたばかりだ。なぜ多くの人が同作に夢中になっているのか、その魅力について、原作者・宮島未奈氏や作画を担当する小畠泪氏のコメントを交えながら掘り下げていきたい。
『成瀬は天下を取りにいく』の魅力
同作は一言でいうと、成瀬あかりという1人の少女をめぐる物語である。その人物像はかなり個性が強く、エキセントリックながらも応援したくなる魅力を備えており、読み手に「自分も何かできるかもしれない」という勇気を与えてくれる。
成瀬は文武両道で、小さい頃から各種コンテストに顔を出し、目立ってきた才能を持つ。だが性格は極めてマイペースで、周囲の価値観に屈しない。幼馴染・島崎みゆきからは「愛嬌に欠ける」と評されることもある。しかし、成瀬自身は他人の反応を振り切り、自分の道を貫く。「空気を読まない」態度こそが彼女の武器であり、読者が最初に惹かれるポイントだ。
物語開始時点、成瀬は中学2年生で“孤立”していることが示される。しかし、彼女が口にする「この夏を西武に捧げようと思う」「お笑いの頂点を目指そうと思う」「200歳まで生きたい」などの宣言は、破天荒であると同時に真っ直ぐで、笑いと共感を呼ぶ。読者は“変人”ぶりに驚きつつ、その“純粋さ”に魅せられていく。
宮島氏は「成瀬の言動は突拍子もないのに、どこか筋が通っていて、こちらも信じてしまう。自分の願望に素直でいる姿を描きたいと思った」という。成瀬が周囲を巻き込んでいくのは、彼女の奔放さではなく、その無邪気さと誠実さゆえだ。
コミカライズで増す魅力と作者・作画の視点
原作者・宮島未奈氏は「コミカライズ版は小説とは違った味わいがあり、原作者でありながらいつも楽しく読んでいます」とコメント。漫画化されたことでキャラクターの表情や間が可視化され、新しい側面を発見できるという。
さらに「漫画から興味を持って小説を手に取ってもらえるのはうれしい。両方の媒体で行き来しながら楽しんでいただけるのは、作者として理想的です」と期待を寄せている。小説の細やかな心理描写と、漫画の視覚的な演出が相乗効果を生んでいるのだ。
舞台となる滋賀県大津市への思い入れも強い。「膳所や西武大津店、びわ湖など、自分が育った町の風景を物語に刻みたかった。コミカライズでその景色が絵になったときは、感慨深いものがありました」と宮島氏は振り返る。
一方、作画を担当する小畠泪氏は「登場人物の表情や仕草に命を吹き込むことを心がけています。成瀬の仏頂面ひとつにも、どこか可笑しさや芯の強さが伝わるように描きたい」という。特に1巻収録の“M-1挑戦”エピソードでは、成瀬の真剣すぎる表情と、次第にノリ始める島崎の変化を描くことに力を注いだという。
「2巻は描きおろしでしたが、構成のさかなこうじ先生が最高の内容にしてくださったので、私もめちゃめちゃ楽しく作画できました」と小畠氏はコメント。現場のチームワークの良さが、コミカライズ版の熱量に直結している。
登場人物たちのエネルギーが迸る青春物語でありながら、滋賀という土地に根差したローカルな魅力をもつ同作。コミカライズ版では、原作のテーマやキャラクター性をそのままに、視覚表現という新しい魅力を加えることに成功している。
「小説と漫画、両方を読んでこそ見えてくる景色がある」と宮島氏がコメントするように、二つのメディアが互いを補完し合い、作品世界をより立体的に広げている。
なお、続編『成瀬は信じた道をいく』のマンガ化も決定しており、成瀬あかりの物語はさらに拡張していく。空気に流されず、自らの意思で突き進む令和最強の主人公の活躍を、小説と漫画の双方で堪能してほしい。