「サンデー」復権の足がかりになるか? 『写らナイんです』『シテの花』……「次にくるマンガ大賞2025」注目作品を解説

Webマンガ部門は「ジャンプ」でできないことをやる「ジャンプ+」作品が多数

 Webマンガ部門は、コミックス部門から一変して「少年ジャンプ+」掲載作品が多数エントリー。高橋アキラ作画、蔡河ケイ『英雄機関』に都築真佐秋作画、かっぴー原作『大人大戦』、ミートスパ土本『限界OL霧切ギリ子』、暗森透『ケントゥリア』、田中靖規『ゴーストフィクサーズ』、住吉九『サンキューピッチ』、大森えす『シバつき物件』、平岡一輝『都市伝説先輩』、市川苦楽『ドラマクイン』、あきま作画、田中空原作『人喰いマンションと大家のメゾン』、大鳥雄介『MAD』、松本陽介『モノクロのふたり』、アストラ芦魔『ラブイズオーバーキル』といった作品が名を連ねる。

 どれも面白いがジャンルは様々。『大人大戦』は、立派な大人になろうと決めて行動していた少年が、トラックにひかれそうになっていた猫を助けて大怪我を負い、15年後に目覚めると誰もが大人として立派に生きようとしている世界になっていたが、そこには凄まじい仕掛けがあったという展開で背筋をゾクリとさせた。『ドラマクイン』は、地球を危機から救ってくれた宇宙人が大勢移住してきた地球で、違和感を覚えながら生きている人間が起こす行動が生きづらさを抱いている現代人たちをザワつかせる。「ジャンプ」本誌では難しいバイオレンスや社会問題を描くことで、違いを出しつつ新たな読者を切り開いている感じだ。

 紙よりバズりやすいネットの特長に乗って、設定の突飛さで関心を集める作品が目立つのもWebマンガ部門の特長か。筆頭が、相葉キョウコ『おじ転生~悪役令嬢の加齢なる生活~』。悪役令嬢として処刑されたクロエが転生したのは現代の日本で、それも中年男の中だったから当人も驚いた。加齢臭にまみれた暮らしに幻滅するが、そこでひるまず徹底的に身綺麗にして中年男として暮らし始め、そこで前世で因縁のあった人物も転生していたことを知る。中年男の悲哀を痛感させられながらも悪役令嬢のバイタリティに感嘆するところが多いイチオシ作品だ。

 ベストセラーになっているまるよのかもめ『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』は、大食いが過ぎる女性の描写のインパクとで読者を引き寄せた。mmk『となりの席のヤツがそういう目で見てくる』は、女性に男性が向けるエロティックな視線の逆、女性から男性に向けられている逆転のシチュエーションで話題を誘った。癖になって読んでしまうところがある内容だけに、いずれも支持を得そうだ。

 突拍子もない設定で関心を惹きつつ、内容でじっくりと読ませる作品もノミネートされている。イシコ『邪神の弁当屋さん』だ。戦争の原因になった女神が罰として人間の世界で暮らすようになって弁当屋を開店。そこに来る客たちや、周りで暮らしている人たちとの日々を通して食べることや生きることの大切さに気づかされる。次に来て欲しい漫画の筆頭に挙げたい作品だ。

 愛らしさが評判となるネットの特長が出た作品では、遊ハち『嗚呼、たぬきはもうだめです』や『店番のスピス』、クラナガ『恐竜はじめました』、お腹すい汰『ちゃんぺんとママぺんの平凡だけど幸せな日々』が挙がってきそう。キャラクターとしての強さもあって受賞に関わらず長く愛されていく作品だろう。

 ノミネート作品に『SPY×FAMILY』『ダンダダン』『怪獣8号』といったWebマンガ発で世界的な人気を獲得する作品があるわけではないため(それぞれエントリー対象外)、判断に迷うところはあるがノミネートされている以上はそれぞれにファンがいて面白さがある。Web連載の特長で数話は無料で読めることもあり、これを機会に試し読みして気に入る作品を探してみるのも良さそうだ。

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