『鬼滅の刃』『ドラゴンボール』『H×H』出番は一瞬なのに大人気……ジャンプ漫画の“即死モブ”たち

■パワーインフレの原点となった『ドラゴンボール』の名もなきおじさん

 『ドラゴンボール』に登場する「戦闘力5のおじさん」も、有名なモブキャラの一人だ。彼は地球にやってきたラディッツが最初に対面した一般人で、恐怖心からライフルを構えて戦おうとするも、呆気なく退場させられてしまう。

 原作での活躍はわずか6ページという短さだったが、実はこのシーン、作中で初めて“戦闘力”という概念が可視化された歴史的瞬間だった。しかもラディッツのスカウターに表示されたおじさんの戦闘力は「5」。一桁を記録したのは潜在能力を隠していた4歳の孫悟飯くらいで、ほぼ現役を退いている亀仙人ですら139だった。修行とは無縁の一般人なので当然といえば当然だが、それでも「5」というあんまりな数値が、逆に強烈な印象を残す結果となった。

 なお「戦闘力5のおじさん」は、フィギュアやTシャツといった公式グッズが発売されるほどの人気ぶりで、スマホゲーム『ドラゴンボール レジェンズ』では、エイプリルフールイベントでフィーチャーされたことも。今や『ドラゴンボール』でもっとも有名なモブキャラの1人として愛されている。

■『DEATH NOTE』実はかわいそうな名物キャラ・渋井丸拓男

 『DEATH NOTE』の渋井丸拓男、通称シブタクといえば、ジャンプ漫画のモブキャラを語るうえで外せない存在だ。

 原作第1話に登場した彼は、チンピラのような存在。集団でバイクを乗り回し、道を歩いていた女性を集団で取り囲んでナンパしていたところ、デスノートの力で事故死させられた。ナルシスティックな身振りで“シブタク”と名乗り始める強烈な個性、猛スピードで突っ込んできたトラックに轢かれる無残な最期、いずれも読者の記憶に強く刻まれる要因となった。

 とはいえ彼と出会ったときの夜神月(キラ)はまだデスノートの力に半信半疑で、手ごろな実験台を探していた段階だった。そのため後にキラが処刑していく凶悪犯罪者たちと比べると、かなり小物。冷静に考えると、たんに女性に声をかけていただけだ。迷惑な人物ではあるものの、死罪に値するかどうかはきわめて疑わしい。インパクト絶大なキャラクター性にごまかされているが、実は哀れな人物だったと言えるのではないだろうか。

 ちなみにこの問題を解決するためか、アニメ版では軽薄なチンピラから暴行未遂犯へと設定が改変されている。これによって、もはや同情の余地がないキャラクターになってしまった。

 すぐれた漫画家はメインキャラクターや脇役だけでなく、モブキャラに至るまで独創的な描写を欠かさないもの。名作漫画でレジェンド級の即死モブが頻出していることには、それだけの必然性があるのかもしれない。

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