3球しか投げられない体で甲子園を目指すーー斬新すぎる野球漫画『サンキューピッチ』の魅力とは?

“3球だけの天才ピッチャー”で高校野球を攻略

 スポーツ漫画のなかでも、“野球”はある意味使い古された題材。『タッチ』に『ドカベン』、『MAJOR』など、数えきれないほどの名作が生み出されてきた。

 しかし最近、野球漫画の世界に新たな風を吹き込むような“怪作”が登場したことが話題を呼んでいる。その作品とは、2024年9月から「少年ジャンプ+」で連載が始まった『サンキューピッチ』だ。

 同作は、“野球部狩り”をめぐるウワサから物語が始まる。謎のピッチャーがさまざまな高校のグラウンドに出没し、野球部員に「3球勝負」を挑んでいるという。横浜霜葩高校の小堀と広瀬は、この野球部狩りが同じ学校に通う生徒・桐山不折だと突き止めるものの、そこで意外な真実が明らかとなる。桐山はイップスにより「1日3球しか全力投球できない」身体になっていたのだ。

 しかしそのピッチング技術は高校生離れしており、4番の広瀬が手も足も出ないほどだった。野球部に加わった桐山は、ピンチの場面に1打席だけ絶対に抑えるワンポイントリリーフの投手として、甲子園を目指していくこととなる。

 主人公に特殊な設定を盛り込む野球漫画は数あれど、1打席しか勝負できないという条件は前代未聞だろう。なにせ一度試合が始まれば、桐山がピッチングするシーンはほとんど出てこないのだ。

 そこで同作が面白いのは、この設定をもとに“ゲーム”のような感覚で物語が進んでいくこと。プレイヤーを務めるのは主に野球部キャプテンの小堀とキャッチャーの広瀬で、「たった3球でいかにして試合を動かしていくのか……」という無理難題に見えるチャレンジに挑んでいく。

 膨大なデータによって成り立つ戦略的な駆け引きとして野球を描く作品としては、『おおきく振りかぶって』という偉大な名作が存在するが、『サンキューピッチ』の場合は野球のルールの外にまで駆け引きの領域が広がっているのが特徴。

 たとえば小堀が3球しか投げられない桐山を勧誘した理由は、ワンポイントリリーフとして有用なだけなく、メンタルの弱いエース投手・三馬を焚きつけて成長させるきっかけが得られると見込んだからだった。部員たちの性格や考えていることを読み、試合の外でも心理的な駆け引きを繰り広げていくという意味で、同作はオリジナリティに満ちた野球漫画と言えるだろう。

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