【漫画】本気で美術で生きていくーー美大の女子学生、変わるきっかけは? 思わず泣ける『君のリビド』


ーー本作を創作したきっかけを教えてください。

禾屋眺(以下、禾屋):本作は昨年、大学の卒業制作として描いた作品です。作品のテーマを決める際に大学での4年間を振り返ると、美術系の学部に在籍していた私は周りの人も美術に関することをやっている人ばかりで、そういう人たちから刺激を受けていたと感じて。4年間の悩みや葛藤も含め「美大生あるある」みたいな漫画を描こうと思い、本作を制作しました。

 卒業制作は約1年かけてつくるものであり、大学での集大成とも言えるでしょう。私はみんなと一緒に頑張る感じがすごく好きだったので、仲間と出会えることも美大の楽しさの1つだということを表現したかったです。

ーー本作の最後で描かれたシーンでは、まさに仲間がいることが表現されていたかと思います。

禾屋:作品をつくるときはもちろん、人に作品を見てもらうこと、展覧会に参加することは1人ではできません。実際に私が個展を開催した際にも多くの人のご協力をいただきました。どんな境遇にあっても1人じゃないということを描こうと思いました。

ーー作中では1人ではないこととともに、ある種の孤独も描かれていたかと思います。

禾屋:美術系の大学は卒業する全員が美術に関する道に進むわけではありません。もちろん美術の道に進むことだけが正解ではない。そんな「人は人、自分は自分である」といった多様性を表現すること、とくに「美術の道に進まないことは間違いだ」と描かないように心がけていました。

ーー主人公にとって島倉教授は救いとも言える存在だったかと思います。

禾屋:島倉教授は私のゼミの先生がモデルの1人になっています。そのため作中で島倉教授が話していることは、先生が実際に言っていたことと非常に似ています。

 学生を突き放しているようにも見えますが、決して否定はしない……そんな先生です。私の大好きな先生だったので、本作で描きたいと思いました。

ーー自分が先生だったら、教え子に本作のような漫画を描いてもらったらうれしいと感じると思います。

禾屋:卒業制作を講評する際に本作を教授たちに見てもらったのですが「作中の教授はイケメンすぎますね」と言われました(笑)。ただ先生がモデルであることが伝わってよかったです。

ーー本作はもちろん、禾屋さんの作品でたびたび描かれる、人が涙を流す描写が印象的でした。

禾屋:大人になると泣くことは減っていくと思います。大学に入学してからは泣いてる人を見る機会も少なくなりました。ただ、それは大人になると涙が出なくなるのではなく、泣くことを我慢しているのだと思います。

 そんななか我慢していた思いが溢れ出たときに、大人の涙は出てくるのだと思います。流れる涙からは、人の弱々しい一面を垣間見ることができる。だからこそ人間としての本質的なものをさらけ出す場面では、涙を流すシーンを描いています。

 私はなにかに悩み、涙を流すことは、その人が本気で向き合っている証拠だと思います。

ーー今後の活動について教えてください。

禾屋:今年の3月に大学を卒業し、現在は商業媒体の担当編集者さんと一緒に連載を目指し漫画を制作しています。本作は連載を目指すなか漫画賞に応募し、賞の1つに選ばれた作品です。次はもっと上の賞に選ばれるように、漫画をいっぱい描いて、面白い漫画を描いていきたいと思います。もっと頑張りたいです。

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