手塚治虫が描く“新撰組”とはーー萩尾望都にも影響を与えた“時代劇短編”の魅力を考察
復刊が続く手塚作品
近年漫画界の巨匠・手塚治虫の名作の復刊や映像化が相次いでいる。中でもユニークなものは手塚が「少年ブック」に1963年に連載した『新選組』も、実写連続テレビドラマ化されたことが話題となっていた。
エッ、手塚治虫が新選組を題材に漫画を描いていたの? そもそも手塚治虫って時代劇を描いているの? と思う人も多いかもしれない。実は、『新選組』の少し前の1959年にも『夜明け城』のような時代劇を描いているし、1981年から5年以上も「ビッグコミック」で連載された『陽だまりの樹』は晩年の傑作と評価されている。
『新選組』は惨殺された父の仇を討つために新選組に入隊した深草丘十郎(ふかくさ・きゅうじゅうろう)と、入隊試験で知り合い、後に親友となる鎌切大作(かまぎり・だいさく)が幕末という激動の時代の中で翻弄される姿を描く少年漫画だ。2人とも手塚が創作した空想の人物だが、芹沢鴨や近藤勇、沖田総司など、実在の人物も登場し、史実を織り交ぜながら物語は展開していく。
あの萩尾望都も感銘を受けた
秋田書店の『手塚治虫全史』の解説によると、『新選組』は手塚が正統派の時代劇を意図して描いた作品なのだという。連載が始まった1963年は、新選組の前身である浪士組結成からちょうど100年目であったが、当時は今のような新選組の人気も知名度はなかった。そのせいか、雑誌では思ったような人気を得ることができず、打ち切りに追い込まれた不遇の作品であったとされる。
だが、漫画好きの間では当時から評価が高かったようだ。漫画界の巨匠・萩尾望都も高校2年生の時にお年玉で『新選組』の単行本を買って深い感銘を受け、漫画家を志すきっかけになったと語っている。2022年に山崎潤子が手塚治虫公式サイト「虫ん坊」で行ったインタビューで、萩尾が当時の衝撃を語っている。いくつか印象的なコメントを引用しておこう。
「そのときの自分の心情に何かこう、ストーリーがフィットしたのでしょうね。ものすごくのめり込んでしまって、1週間くらいずっーと、この漫画のことを考えていた」
「進路やら何やらで、悩んでいた(注略)そんなときに、『新選組』に出会って、頭から離れなくなった。そして『こんなにもひとつの物語が人にショックを与えるものなのか』と感動しました」
「人間には『やられたことをやり返す』という癖があるんです。だから、私も誰かにショックを与えたいと思ったわけです(笑)」