東京創元社「新刊ラインナップ説明会2025」レポ 英国で初版50万部のミステリから町田そのこ新刊まで話題作続々

 

SF作品からは、中国研究の博士でもあるR・F・クァンによる『バベル オクスフォード翻訳家革命秘史(上下)』がピックアップされた。ふたつの言語における単語の意味のズレから生じる“翻訳の魔法”により、大英帝国が世界の覇権を握る19世紀。英語とは大きく異なる言語を求めて広東から連れてこられた中国人少年・ロビンは、オックスフォード大学の王立翻訳研究所、通称バベルの新入生となり、言語のエキスパートになるための厳しい訓練を受けるーー。

 「翻訳」がテーマになった本作の翻訳を手がけた古沢嘉通は、「翻訳小説を愛する読者を肯定する物語」としつつ、「読み終えたら、ぜひ第3章を読み返していただきたい」と、ネタバレを避けながら読者にアドバイスを送った。その他、タイトルからロボットアニメ好きにも刺さりそうなアレックス・ホワイト『超機動音響兵器ヴァンガード』、ゲームライター・ゲームコレクターとしても知られる赤野工作による『遊戯と臨界 赤野工作ゲームSF傑作選』、生身の肉体で生きることが困難になった人が「情報人格」として仮想世界で暮らすことができるようになった近未来を描いた笹原千波『風になるにはまだ』など期待作が多く、また根強い人気を持つイギリス人SF作家、クリストファー・プリーストの翻訳が再始動しているという発表に、会場から拍手が起こった。

 近年で作品数を増やしている文芸のジャンルからは、文芸雑誌「紙魚の手帖」発のアンソロジー『駅と旅』、一見無駄に見えるものを大事に集める人たちを描いた砂村かいりの短編集『集める人(仮題)』、元ラガーマンの堂場瞬一による集大成的ラグビー小説『フルハウス』など、気になる作品が続々。そして、『52ヘルツのクジラたち』がベストセラーとなった町田そのこの新作(タイトル未定)も、7月の刊行が予定されているという。地方の小さな町に暮らす中学生の民子と隆之は、誰にも言えない罪を抱えていた。15年後、同じ場所での再会をきっかけに、ふたりとその周囲の人生が動き出すーーという感動の連作長編で、期待が集まる。

 東京創元社は2025年も精力的に動いており、50作品の文庫フェア「読まずに死ねるか!フェア2025」、品切れだった文庫を復刊する「復刊フェア2025」など、書店を盛り上げる取り組みを多数展開。また、2025年10月31日〆切の「第36回鮎川哲也賞」、2025年3月31日締め切りの「第3回創元ミステリ短編賞」、2026年1月13日締め切りの「第17回創元SF短編賞」、詳細後日発表の「第2回創元ホラー長編賞」と、新人賞にも力を入れていくようだ。今年も幅広いジャンルから知的好奇心をくすぐり、背筋を凍らせ、心を温める名作の誕生に期待しよう。

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