東京創元社「新刊ラインナップ説明会2025」レポ 英国で初版50万部のミステリから町田そのこ新刊まで話題作続々
ミステリ・SF・ファンタジー・ホラーの専門出版社である東京創元社の「新刊ラインナップ説明会2025」が2月20日、都内で開催された。2014年からスタートした新刊ラインナップ説明会は、今回で記念すべき10回目。昨年で創立70周年を迎え、例年に増して豪華なラインナップを発表していた東京創元社が、勢いもそのままに多くの注目作を発表。司会はお馴染みの池澤春菜が務め、作家の上條一輝、額賀澪、貫井徳郎、翻訳者の服部京子、古沢嘉通、酒寄進一(※VTR出演)が登壇した。(メイン写真:前列左から池澤春菜、額賀澪、服部京子、後列左から上條一輝、貫井徳郎、古沢嘉通)
注目の国内ミステリ作品として初めに紹介されたのは、貫井徳郎『不等辺五角形』。避暑地に訪れた幼馴染の男女5人。そのひとりが死体となって発見され、ひとりが「私が殺した」と告げて警察に連行される。残された3人が順に証言をしていくが、同じ出来事を語っていても三者三様に思惑は異なりーー。
それぞれの証言ごとに事件の印象はガラリと変わり、最後に至って真実が浮かび上がる快感のある作品だが、登壇した貫井本人は「説明がすごく難しいタイプの話で、ミステリを期待しながら読むと面白くないかもしれない(笑)」と一言。点と点がつながるのではなく、3人が語る一見関係のない”昔話”自体がすべて伏線となる例を見ない内容で、人に勧める際には「退屈かもしれないけれど最後まで読んでみて、と説明していただければ」と語った。ラストに至るとき、かつてない興奮が味わえるだろう。
その上で、最後に何かいい感情を胸の中に芽生えさせていただければ、それだけで大収穫だと思います」と語る。作品のオビや書店のポップには、全国の中高生や教育関係者140名のコメントが寄せられており、若い世代からは「3.11を知らない」「教科書の記述や数字としてのデータではなく、初めて物語として触れられた」という声が届いているという。額賀は「“教えられる”以外の方法で、遠い存在だと思っていたものが、実は近しい存在だったということを知ることができる」という小説の魅力をあらためて感じたそうだ。
ファンタジー&ホラージャンルの新刊からは、庵野ゆきによる人気異世界小説『竜の医師団』の第3集&第4集、ポプラ社から刊行されていた深沢仁の傑作ファンタジー『英国幻視の少年たち』の待望の愛蔵版(全3巻)など、注目作が続々。その中で、プッシュされたのは第一回創元ホラー長編賞受賞作『深淵のテレパス』の続編『あしや超常現象捜査2(仮題)』だ。超常現象に立ち向かうYouTuberという現代的なモチーフで、数々の作家からも絶賛を受けている作者の上條一輝は、「生意気にも最初からシリーズ化を視野に入れていました(笑)」と語り、『深淵のテレパス』でもあえて謎を残していたことを明かした。前作の舞台が三軒茶屋で、今作は雑司ヶ谷。長野県出身で「東京に憧れがあった」という上條による、街の描写もみずみずしい。作品の好調を受けて第二回創元ホラー長編賞の開催も決定しており、第一回受賞者としてさらに注目を集めそうだ。
また、ファンの期待が高まるのは本国イギリスで初版50万部を記録したホリー・ジャクソンの『Five Survive(原題)』。デビュー作『自由研究には向かない殺人』以降の3部作を経て、さらに勢いに乗る著者が描くのは、「キャンピングカー」を舞台にしたミステリ。
高校の友人3人、お目付け役の大学生2人と春休みの旅行に出かけた18歳のレッドだったが、人里離れた場所でキャンピングカーが故障し、立ち往生。そんななか、いきなり何者かに狙撃され、タイヤとガソリンタンクを撃ち抜かれてしまう。スナイパーは乗車している6人を知っており、ある秘密を知るひとりを特定しろと要求してきてーー。翻訳を手がけた服部京子は、「次に何が起こるか全く予想できず、とにかく面白いです。車内の場面がほとんどで、ひとつの芝居を見ているような楽しさもあります」と語る。独白の描写も多い中で、「あくまで三人称視点で描かれた作品なので、一人称に偏らないように注意した」という、バランスに気が配られた翻訳にも注目したい。