謎の覆面ホラー作家・雨穴ってどんな人? 『変な絵』世界デビュー会見でわかった、国境を越えるパーソナリティ
ベストセラーを連発し、出版業界の新たなスターとして注目を集める覆面ホラー作家/YouTuberの雨穴(うけつ)氏。全身黒ずくめの装いに、不気味にも見える白いマスクーーウェブメディア「オモコロ」やYouTubeチャンネルでの活動を知らない人にとっては、謎が深まるばかりの人物だろう。そんななか、彼が初めてマスコミの前に姿を現した。1月16日、日本外国特派員協会で開かれた緊急記者会見の模様をレポートする。
本会見は、2022年に発刊された『変な絵』(双葉社)に関して、世界30ヶ国(北米、ヨーロッパ、南米、アジア)での出版という「世界デビュー」について報告するもの。同作は9枚の絵をめぐる衝撃的なスケッチ・ミステリーで、コミック&文庫化され、シリーズ累計120万部のベストセラーとなっている。映画版も話題を呼んだ『変な家』に続く大ヒットで、すでに海外でも評価されている。
会見に登場した雨穴氏は、「せっかくなので、英語のスピーチをしたいと思います」と宣言。同時に、「私が自分で書いた原稿なので、すごくイージーでわかりやすい言葉だと思います。だいたい何を言っているのかおわかりいただけると思いますが、もしわからなかったら後でご質問をお願いします」と日本人記者への配慮も欠かさなかった。「どんな会見になるんだ」という緊張感が、和やかなムードに変わる。
スピーチでは自身のキャリアを伝えるとともに、自作が若い世代に広く受け入れられている理由を分析。ひとつには、複雑なトリックやストーリーのポイントを説明するために図を多用しており、文字だけの一般的な小説と比較して読みやすいこと。また、YouTubeを通じて作品の概要と面白さを伝えてきたこと。そして最後に、自身の作品が「とにかく怖いこと」を挙げた。
ホラーは現在の若い世代にも人気のジャンルだが、特に日本ではわかりやすく衝撃的なお化けや、恐ろしいモンスターが登場するような伝統的なスタイルは人気がないと、雨穴氏は分析する。人気を集めているのは、「静かで不気味な、不安な気持ちにさせる物語」であり、それが自身が書いていることだとまとめた。
印象的だったのは、「今の世界は、日本も含めて、悲しいことばかりの大変な時代です」とその背景に言及し、「もしかしたら、若い人たちはそのような不安な空気を感じ取り、それに対処するために、このような不安な物語に目を向けているのかもしれない」と、雨穴氏が悲しんだことだ。すべての子どもたちが何も心配することなく成長できればいいが、「自分にはその力がない」と語り、「その代わりにいい物語を書いて、楽しんでもらいたい」と力を込めた。
一見すると、奇妙で恐ろしくもある出立ちだが、ユーモラスで、シャイで、なぜか可愛らしくも感じる雨穴氏のパーソナリティ。それが海外メディアにも伝わったようで、「若い人たちを幸せにする力がないという話だったが、あなたはその可能性を持っている」という声も上がった。
質疑応答で「実現したい夢」を問われた雨穴氏は、「いつか、遊園地のお化け屋敷を作ってみたい」と語った。人々を戦慄させる「不安な物語」の送り手でありながら、あらゆる表現方法法で人を楽しませるエンターテイナーでもある彼に魅了されるファンは、国内外でさらに増えていきそうだ。