連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2024年12月のベスト国内ミステリ小説

梅原いずみの一冊:荒木飛呂彦・柴田勝家『岸辺露伴は嗤わない 短編小説集』(集英社)

 荒木飛呂彦の作品に登場する岸辺露伴が主人公の連作短編集第4弾である。SF作家の柴田勝家による4話が収録されており、幻想怪奇的な作風が岸辺露伴の世界観とバッチリ調和している。好奇心から奇怪な出来事に近づいては窮地に陥る露伴先生の姿は今作でも健在。曰くを持たない人形、美しい庭園の裏の顔、一生に一度しか見られない神事などの怪異に対し、露伴は能力と機転を利かせ切り抜ける。ロジカルな頭脳戦のようで唸ってしまう。ちなみに最終話は『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』とあわせて読むとより怖……ではなく趣深いッ!

橋本輝幸の一冊:雨井湖音『僕たちの青春はちょっとだけ特別』(東京創元社)

 「東京創元社×カクヨム 学園ミステリ大賞」大賞受賞作。

 主人公・青崎架月は入試面接で、どんな高校生になりたいかと聞かれる。回答は「友達がたくさんいる高校生になりたいです」。彼がぶじ合格したのは、軽度の知的障害や、学習障害・発達障害のある生徒が通う特別支援学校だ。普通学級で孤独だった架月は、ここで他人との交流を学び、日常の謎や事件に取り組む。もっとも彼にとって他人の思考は謎だらけだ。

 著者は診断名をほぼ明かさず、登場人物を特別な人たちではなく、共感できる若者として描いた。彼らの普通の青春がまぶしく、心温まる。

杉江松恋の一冊:松岡圭祐『正・続タイガー田中』(角川文庫)

 007シリーズのパスティーシュが二ヶ月連続で突然刊行された。正篇は『007は二度死ぬ』で来日後、長期間行方不明になっていた時期を、続篇はスメルシュに洗脳されてボンドがMの暗殺未遂事件を引き起こした後の話だ。イアン・フレミングによる正典に極めて忠実に書かれており、まったく無矛盾でボンド史にはめ込めるのが凄い。作者の愛を感じる。タイガー田中とは映画で丹波哲郎が演じたあの人で、娘も登場して父子鷹でボンドと共闘するのである。続篇には殺し屋スカラマンガも登場。ジャマイカつながりであの人も復活、なんとも豪華である。


 ひさしぶりに全員が違う作品を挙げた月になりました。説明不能の仕掛け小説から海外作品のパスティーシュまで本当にバラバラですね。さて、次月はどういうことになりますやら。お楽しみに。

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