ReHacQ代表 映像ディレクター・高橋弘樹、人生や仕事に影響を与えた本を聞く
お寺に行くと四天王や仁王像などの厳めしい像がありますよね。その足元をよく見てみると、鬼を踏んづけている。それが邪鬼(じゃき)なんです。私自身、40年以上生きてきて、どこかで目に触れているはずなのに、この存在に気が付いていませんでした。
この本では日本全国の邪鬼を調べあげて、写真を収集しています。邪鬼の表情をよく見てみると踏んづけられているのに、どこか愛嬌があって恍惚としたマゾヒスティックな表情をしている。
実は邪鬼というのは元々は神様だったようなんです。インドでは仏教が起こる以前から、ヒンズー教などの神様に原始信仰があったようですが、なかでも凶暴な鬼神が崇拝されていました。そこでは新しい鬼神が出てきては、それまでの鬼神を征服していくような歴史が繰り返されました。すると征服された鬼神は悪者になったりする。つまり、邪鬼は昔は神だったのに身を落とされた存在だったんです。だからこんなに愛おしい魅力的な表情をしているのかなと思います。
著者の水尾比呂志さんという方は知らなかったんですが、本当にリスペクトします。世の中でありふれているのに、まだ知られていない魅力を楽しく伝えている。これはみうらじゅんさん的ですよね。
これとちょっと近い感性では『鍾馗さんを探せ!!』という本も面白かったです。僕はこの本に出会うまで知らなかったんですが、京都では屋根の上に小さな守り神がいて、鍾馗(しょうき)さんと呼ばれるそうです。確かに京都に行った時に探してみると、町のところどころにいるんですよ。みんないろんな表情をしていて、可愛いものもあれば困っている顔をしているものもある。この本ではそんな写真をたくさん掲載して紹介しています。こういうことを知ると、人生の楽しみが増えるじゃないですか。それは視点を提供するということだと思うんです。それは素晴らしい仕事ですね。
ーー映像の仕事とも通じることでしょうか。
高橋:そうですね。昔、テレビ東京で作っていた番組「空から日本を見てみよう」は、日本を空撮で見てみようという企画でした。例えば、なかなか中には入れないような製鉄所を外から見てみたり、海食崖などの地形を眺めてみたり。そういう見方を知ることで、生活がちょっと楽しくなってきますよね。
リハックでもいろんなことをやっています。例えば、今年配信した「ビジネスパーソンのための物理学入門」では、物理学の基本的な考え方を知ることで、日常の見方が楽しくなってくる。政治も同じかもしれませんね。政治にも楽しみ方のコツがあるはずです。そういう見方を提示することは、すごくやりがいがあります。知識を伝えるのもメディアの役割ですが、ものの見方を伝えることをしていきたいと思います。
「町中で後ろ指を指されるような、イタいおじいちゃんになりたい」
ーー最後に、高橋さんにとって「2024年を象徴するアイテム」を教えてください。
高橋:今年はドンキで買ったスリッパがすごく楽でよかったですね。どうしても仕事をしている時間が長いので、靴が足を締め付けてくるじゃないですか。それが嫌で買ってみたんですが、履き心地がよくて外に行く時にも使えて便利なんです。
あと、ファミマの靴下をいつも買いますね。今日は緑なんですけど、カラフルな色が揃ってるんですよ。これはほどよく自分をださくできるじゃないですか。忙しくて家に帰れずにお風呂に入れないような時に、靴下だけでもコンビニで買いたくなる。
黒や茶などの色は無難ではあるんですが、もう持っているしと思って、赤とか緑とか水色を買っちゃうんですよ。着こなせているわけでもないんですけど、原色の色が綺麗で買っちゃうんです。なんかそういう人生でいたいですね。町中で後ろ指を指されるような、イタいおじいちゃんになりたい。「俺、緑が綺麗だと思ったんだよな」と言いたいですね(笑)。
プロフィール
高橋弘樹(たかはし・ひろき)
映像ディレクター。経済メディア「ReHacQ」プロデューサー、株式会社tonari CEO。企画・演出に『家、ついて行ってイイですか?』『日経テレ東大学』『吉木りさに怒られたい』『ジョージ・ポットマンの平成史』『世界の果てに、東出・ひろゆき置いてきた』。著書『1秒でつかむ』『TVディレクターの演出術』『都会の異界』など。起業と同時にサイバーエージェントにも入社し、ABEMAのゼネラルプロデューサーを務める。