ReHacQ代表 映像ディレクター・高橋弘樹、人生や仕事に影響を与えた本を聞く

ーー他に記憶に残った本はありましたか。

高橋:最近は仕事で読む本が多いんですが、『まばたきで消えていく』(書肆侃侃房)という短歌集がとてもよかったです。著者は藤宮若菜さんという20代の方なんですが、リハックで「死」を考える番組に出演していただきました。これは彼女自身がずっと死を意識しながら生きていて、創作に向き合ってきた方だからでした。番組でお会いした後、ちょっと時間ができた時に、この短歌集を読んでみたんです。彼女は、普通に生きていると見逃してしまいそうな、生や死に対する独特な感性を持っていらっしゃる。生々しいきらびやかさのようなものに包まれているんです。

 例えば「ラブホテル排水溝から溢れだす誰かの喘ぎ、生きてって思う」。ラブホテルの排水溝に思いをいたすということはなかなかないじゃないですか。でも確かに、本来そこは生命が誕生する場であるのに、人間はそれを無為に消費しているようでもある。そういうことに対する目のつけ方と感性がすごく生々しいんです。20代というのは、生や性の魅力に満ち溢れる春のような時期なのに、同時に死というものを強く意識している。普段、生や死について深く考えることがあまりないんですが、こういう言葉を読むとグサグサと刺さってきます。

ーー生と死が対比的に描かれているんですね。

高橋:汚いものに目をつけるんですよね。「地下鉄の隅を流れる黒い水/あなたが生きても死んでもいやだ」など、町の中の汚いような場所を描写するんです。他にも「吐瀉物でひかるくちびるいつの日かわたしを産んで/まだ死なないで」。ここでは吐瀉物という汚いものと、「ひかるくちびる」という綺麗なものが同時に存在している。美しさと汚さの対比を、絵画的にみずみずしく描いているんです。

 「錠剤をメロンソーダで飲みほして夏のさいごは自分で決める」。これは睡眠剤なのか他の精神系の薬なのかわかりませんが、自死を連想させるようなところがあります。しかし、それをメロンソーダで飲むというところが印象的です。美味しいものを飲む・食べるというのは、生きる喜びじゃないですか。死にたいんだけれど、最後に生きる喜びを味わいたい。すごく矛盾しているんですが、それがすごく好きです。物づくりをやっていると、作りたいけれど苦しいと感じるようなことも多い。そういう矛盾に向き合いながら、やっているんですよね。


 

みうらじゅんの原点の本

ーーラストとなる3冊目を教えてください。

高橋:去年の年末にラジオでみうらじゅんさんとご一緒した時に、みうらさんが『邪鬼の性』という本を推薦していました。昔読んで物事の見方が定まったそうで、みうらさんの原点にある本だそうでした。みうらさんがそこまで言うならと思って、古本を買って読んでみると確かに面白くて。

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