アニメーターを目指す学生はどんな授業を受けている? デジタルハリウッド大学に潜入してみた

アニメの授業はどうなっている?

 漫画やアニメーションを教える専門学校はたくさんあるが、近年は大学でも教える例が増えてきている。いったいどのような授業を行っているのか。今回は一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)の理事で、アニメーターの福井智子さんが講師を務めるデジタルハリウッド大学の「作画演習」の授業を取材した。

 作画演習は読んで字のごとく、アニメの作画について演習する授業である。特に、アニメーターの基本である“動画”の描き方を学ぶ。福井さんは動画のクオリティを守る“動画監督(動画検査)”として、これまで多くのアニメーターを育ててきた大ベテランだ。そんな福井さんの授業を受けられるとあって、将来、真剣にアニメーターを志す学生が授業を受講する。

 筆者は授業を後ろから見学させてもらいながら、取材を行った。教室の風景自体は一般的な大学とそれほど変わらないが、まったく違うのは学生の持ち物である。学生たちは原画のトレスに使うトレス台を持参し、鉛筆、色鉛筆、羽箒、そしてアニメーターには欠かせない“タップ”や“クリップ”などの道具が手元にある。いわゆる芸術系の大学の授業とも、少々違った雰囲気がある。

学生に向けて講義する福井さん。授業の風景自体は一般的な大学とそれほど変わりない。

なぜ、アナログで描くのか

 授業が始まる前にガガガガガガ…と懐かしい音が響いていた。これは、電動鉛筆削りの音だ。もう、すっかり聞かなくなってしまったが、筆者が子どものころには教室に常備され、バリバリ活躍していた道具である。漫画もアニメも、多くの人はデジタル、すなわちパソコンで作業すると思っているかもしれない。しかし、漫画家は約9割がデジタルとされる一方で、アニメーターはアナログで原画を描く人も多く、約4~5割がアナログだという。

アニメ教育の現場では鉛筆削りや鉛筆、色鉛筆などのアナログ画材が現役。もちろんプロのアニメーターも愛用している人が多い。

 とはいえ、最近のアニメは、デジタル作画が主流である。鉛筆で描かれた原画や動画もスキャナでパソコンに取り込まれて、データ化される。素人考えでは、最新のテクノロジーに最初から触れたほうが効率もいい気がするが、なぜアナログのやり方を教えるのか。福井さんは「紙に絵を描くことはアニメの基本。紙と鉛筆で基礎から学んでから、デジタルの技術を身につけても決して遅くありません」と説く。

 筆者が取材した別のアニメーターからも、アナログからデジタルに移行することはスムーズにできるうえ、アナログはデジタルのように簡単に修正ができない分、ブレない本物の画力が身につくという意見があった。そして、福井さんが動画を重視する理由はこうだ。「テレビに映る絵は、動画マンが描いた動画だからです。今回の作画演習はアニメーターの入口であり基礎ですが、もっとも重要な作業を学ぶ授業といえます」

現役のアニメーターであり、作画演習の授業で講師を務める福井智子さん。

“振り向き”をどう描く?

 今回はアニメに欠かせない基本的な動作、“振り向き”の課題だ。『サザエさん』に登場するカツオくんのような、シンプルな坊主頭の少年の絵を教材に授業が進む。実はこの絵、福井さんが作成し、新人アニメーターの教育に長年使ってきたものだそうだ。この絵を使って学んだのち、人気作品に関わるようになったアニメーターは業界に数多いという。

 この絵を、学生は黙々と原画をトレス、すなわち清書し始めた。静かな教室にカリカリと鉛筆の音が響く。学生の表情を見ると真剣そのものだ。筆者は大学の授業を数多く取材しているが、アニメや漫画などの芸術系の大学生は非常に真面目だなと感じることが多い。「実際に描いてみるとよくわかりますが、こういったシンプルな絵ほどきれいに描くのが難しいんですよ」と福井さん。

 トレスと聞くと、ただなぞるだけだと思っている人が多いかもしれない。それは大きな間違いだ。原画を描いた原画マンの線の“ニュアンス”を拾い、もとの絵の魅力を失わないようにトレスする必要がある。繰り返すようだが、テレビの画面に映るのは動画マンの絵なのだ。どんなに才能のあるアニメーターが魅力的な原画を描いても、動画の線がガタガタになってしまえばすべてが水の泡。最悪の場合、そのアニメは作画崩壊してしまうのである。

原画をトレスする作業はアニメーターの第一歩でありながら、最重要な工程である。トレス忘れがないかを確かめるために、紙を何度もめくりながら確かめる。

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