岩谷翔吾、初小説『選択』で特殊詐欺を描いた理由 「足を踏み外した人の生にも救いはあるんじゃないか」 

 THE RAMPAGEのメンバー16人それぞれの個性を引き出して書籍化し、12ヵ月連続で刊行する大型企画「GL-16~THE RAMPAGE BOOKS~」(幻冬舎 × LDH JAPAN)。その第6弾として、岩谷翔吾の初の書下ろし小説『選択』が刊行された。

 高校の同級生でもある俳優の横浜流星が原案者となった本作は、父を憎む主人公の亮と、その幼馴染である匡平が、やがて社会の闇に飲み込まれていく姿を描いた物語だ。本作の執筆背景について、文芸ライターの立花ももが掘り下げる。(編集部)

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徳を積んだことがない人がいないように、生まれながらの悪人もいない

――〈亮は走っていた。父を殺すために。〉という最初の一行がいいですよね。疾走感があって、何が起きているのだろうと、読み手をわくわくさせてくれる。

岩谷翔吾(以下、岩谷):もともとは全然違う始まり方をしていたんですよ。というのも、最初に思い浮かんだのはクライマックスの部分で、どうしたらラストシーンにたどり着けるのか、逆算して物語を組み立てていった。でもどうしても、始まりの文章にしっくりこなくて。ある日突然、あ、と思いついたのが今のかたち。僕のなかから生まれたそのままを書いたから、褒めていただけてうれしいです。その一行が決まったら、続きの十ページくらいも、これまでの葛藤がなんだったのかというくらい、するすると書けました。

――本作は、高校の同級生でもある俳優の横浜流星さんと、一緒に構想していったんですよね。

岩谷:俳優として経験を積んできたなかで、どういう役を演じるのがいちばん楽しいのか、逆に全然やったことがないけど挑戦してみたい役はあるのか、聞いたときに話してくれたのが『選択』の主人公である亮の物語でした。ざっくりとした設定くらいだったけど、聞いているだけでわくわくしちゃって。「それ、俺が書くわ」って言ったのがきっかけですね。

――書きたい、と惹かれたのはどういう部分だったんですか。

岩谷:亮が何をしてしまったのか、そのときはまだわからなかったけど、ラストの「俺、どこで間違えたかな……」ってセリフはあったんです。泣くわけでも怒るわけでもない、もちろん笑ってもいない。そのときの亮はどんな表情をしているんだろう、どう演じるのが正解なんだろう、みたいな話を流星がするのを聞きながら、そのプロセスをたどりたいと思いました。そのときはこんなにもちゃんとした一冊になるとは思っていなくて、遊びの延長で、ああでもないこうでもないと二人で物語を組み立てていくのが、ただ楽しかっただけなんですけど。

――それで、特殊詐欺に加担するという設定に。

岩谷:正直、自分とは無縁の世界だと思っていたんです。でもニュースを見ていると、自分とそんなに年の変わらない若者が手を染めているんですよね。もしかしたら、全然遠い話ではないのかもしれない。些細なきっかけで足を踏み入れて、抜け出せずに今も苦しんでいる人がいるのかもしれない、と資料を読んで考えるようになりました。特殊詐欺とは知らず、ふつうのバイトだと思っていたのにいつのまにか、というパターンもあるだろうし。

――今、問題になっている闇バイトも、そうですよね。悪いことがしたかったわけじゃない。ただお金が必要で、あるいは友達を見捨てられなくて、いつのまにか引き返せないところまで来てしまうのだということが、亮を通じて生々しく描かれていました。

岩谷:世間的に見れば亮は犯罪者だけれど、だからといって悪人とは言い切れないんだってことを、この小説では伝えたかったんですよね。今の世の中、断片的に物事をとらえる人が多すぎて、実際のところを知ろうともせず、SNS上の噂や偏見を鵜呑みにして誰かを断罪する光景を何度も目にしてきましたから。もちろん、事情があるからって許されないこともあるけれど、生きてきて一度も徳を積んだことのない人はいないと思うし、罪を犯した人はすべてを否定されなきゃいけないのかといえば、そうではないとも思う。足を踏み外してしまった人の生にも救いはあるんじゃないかってことを、書いてみたいなと思いました。

――亮が所属する組織のボスである神龍も、めちゃくちゃ怖い人だけど、児童養護施設に寄付をしている一面もある。絶妙だな、と思いました。だからといって彼の悪行が許されるわけではないけれど、そばにいたらほだされてしまうかもな、と。

岩谷:徳を積んだことがない人がいないように、生まれながらの悪人もいないと僕は思うんですよ。生きてきた過程できっと、守りたい人や大切にしたい人もいたはず。それに、ボスとして支持されるからには、カリスマ性というだけでなく、何か人を惹きつける魅力があるのだろうと思いました。寄付のエピソードを思いついたときは、流星もいちばん食いついてくれて。そこを褒めてもらえるのが、いちばん嬉しいかもしれません。

――一方で、亮が組織に入るきっかけとなった佐原は、だんだん助けてもらった恩を忘れていって……。やるせなかったですが、それもまた、人間だなあという感じがしました。

岩谷:いますよね、佐原みたいな奴(笑)。個人的には、ものすごく書きやすいキャラクターでした。彼がつく、蛇沼という幹部とのやりとりも、放っておくとどんどん膨らんで、本筋とは関係ない物語が展開しそうになって。亮にとっても、あの二人は決して〝いい人〟ではないけれど、裏切ったりすれ違ったりしながら、人との関係が変わっていくのもまた人生だよなと思います。

――佐原を助けなかったら、今も亮は罪を犯さずに済んでいたのかもしれない。でもあのとき佐原を助けなかったら、それはもう亮ではない。そのままならなさも、切なかったです。唯一の救いは、美雨という恋人となる女性の存在ですが。

岩谷:たとえ犯罪者でも、日常のすべてが罪に染まっているわけじゃなくて、誰かを好きになってともに生活する日常もあるだろうな、と。家族に恵まれず、愛を知らなかった男が、初めて愛を知っていく過程も、描きたかったことの一つです。けっきょく二人の関係もすれ違ってしまうんだけど……それは、亮が犯罪者だから、というだけではない気がするんですよね。恋人や妻のために一生懸命仕事を頑張っていたつもりだったけど、相手が望んでいるのはそんなことじゃなかった、っていうのは犯罪者じゃなくてもよくある話で。

――相手のために、はだいたいすれ違いますよね。

岩谷:もっとこうすればよかったのか、とあとで気づいても遅い。そういう後悔を、一度もしたことない人っていないと思うんですよ。人生というのは、9割が葛藤とコンプレックスのかたまり。そうじゃないと見せかけるために、SNSで華やかな生活を投稿したり、余裕があるようなそぶりをみせたりする。で、本当はその人の1割にしか過ぎないものを見て、葛藤とコンプレックスを募らせたりするわけです。

――見えていない9割を誰しも抱えているのだということに気づかず。

岩谷:それが今の社会だなって思います。だから、その9割にちゃんと向き合おうとした美雨に、思いを託したところがあるというか……。自分勝手な女性だと思われて嫌われないか、不安はあるんですけど、個人的には愛着のあるキャラクター。楽天Koboで販売される電子書籍限定の特典・スピンオフ小説では、美雨のその後を書きました。

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