速水健朗のこれはニュースではない:ビールのCMのタレントたち、どちらかというとワインを飲む層に見える
日本人はビールとJポップだけを頑なに守り続けている
さて、バドライトが保守系に嫌われてしまったのであれば、保守層向けのビールを売ればいい。そう思い立ってビールのブランドで起業したのがプロレスラーのハルク・ホーガンだ。彼は、トランプの応援に回った有名セレブの筆頭格だが、応援演説に留まらず、会場でビールも売っていたのだ。発売は、これから選挙戦が盛り上がるというタイミングの6月。ビールのブランド名は「リアル・アメリカン・ビール」。彼の入場曲でなじみのあるフレーズ。ちなみにアルコール度数4.2パーセント。ちゃんと度数を抑えたライトビールだというのが抜け目ない。そして、アパレルも同時展開してTシャツとキャップも同時に展開した。
日本のビールには、保守もリベラルもないが、ただ無垢で大人しいCMのジャンルになり続けている。近年、とりわけ酒類メーカーは社会の変化に過敏になっている。数年前、ストロングゼロが流行したときに、路上飲みやトー横文化と結びつけられ始めると、すぐに商品のリニューアルを行い、火消しに走ったことは記憶に新しい。メーカーには、飲酒行為への社会的な評価を調査研究する部門が存在する。つまり、自分たちが社会悪に加担しないための研究部門だ。かつてのタバコと同じ憂き目に遭わされるのは勘弁ということなのだろう。
なるほど、大人しそうな俳優たちがビールのCMに起用されている理由も自然と見えてくる。商品のヒットよりも、社会的な悪評を避けたい。ビールは買わなくてもいいけど、自分たちのことは嫌いにならないでほしいということ。
日本人はビールとJポップだけを頑なに守り続けている。ただそれらは、いつまで守り続けることが可能だろうか。海外のビールブランドが日本に進出するなら、狙い所はCMである。Netflixのドラマがピエール瀧や唐田えりから、テレビに干された俳優陣を起用するように、東出昌大やフワちゃんを起用したビールCMをつくればいい。もしくは、島田紳助と松本人志が肩を並べてビールを飲むCMを日本のメーカーはつくれないだろう。
江角マキコがいつかカムバックするとして、その舞台は、ビールのCMがいいのではないか。『ショムニ』のスーツで脚立を抱えた江角マキコが缶ビールをテーブルにバシッと置くだけで決まる。Makiko Esumi Great Again。広告のキャッチコピーは「バカ息子に乾杯」だとそのまま過ぎるだろうか。
■書籍情報
『これはニュースではない』
著者:速水健朗
発売日:2024年8月2日
※発売日は地域によって異なる場合がございます。
価格:本体2,500円(税込価格2,750円)
出版社:株式会社blueprint
判型/頁数:A5変/184頁
ISBN 978-4-909852-54-0 C0095