翻訳書で出荷停止&絶版騒動も……編集者も見抜くのが難しい「トレース問題」を考える

トレース疑惑で書籍の出荷停止

 ホビージャパン・技法書編集部は、『マンガ・イラストにすぐ使えるキャラポーズ図鑑  自然なしぐさからアクションまで あらゆるポーズ1800』に関して、収録されている図版にトレースの疑いがあるものが多いと指摘があったことを受け、同書を出荷停止並びに絶版にすると発表した。同書は10月2日に発売されたばかりだった。

 公式サイトが更新され、「読者の皆様、日本語版の巻頭ページにイラスト作例をご寄稿いただいたイラストレーターの皆様、日本語翻訳をご担当くださった翻訳者様、および関係各位におかれましては、多大なるご迷惑をおかけいたしましたことを重ねてお詫び申し上げます」と謝罪文が掲載されている。合わせて、返金対応も行うと発表された。

 今回の本は中国・人民郵電出版社から出版された本を日本語訳した一冊とのことだが、国内外を問わず、書籍の図版にこうしたトレース疑惑がかけられることはたびたびある。近年も、ある有名イラストレーターが描いた表紙にトレース疑惑がかけられ、編集者が謝罪した事例があった。しかし、この件も本当にトレースだったのかどうか、イラストレーターの口から明言されることはなく、最終的には有耶無耶になってしまった印象だった。

トレースを見抜くのは難しい

 トレースやパクリなどの疑惑はSNSや読者の指摘で発覚する例が多い。出版界の問題に詳しい大手出版社で書籍の編集を行うベテラン編集者N氏は、こう考察する。

「出版物に使われたイラストレーターの絵がトレースなのではないか、という疑惑は裏ではよく起きているんです。ただ、ネットではトレース疑惑を検証している人もいますが、はっきり言って判定は難しい。偶然似てしまった、偶然既存の絵と瓜二つになってしまったとイラストレーターに言われたら、それ以上追及するのは厳しいんですよ」

 N氏は、今回は翻訳書だったが、「こうしたトラブルは今後も起こりうるのではないか」とみている。「翻訳書に関しては、オリジナルの著者と一度も会わずに出版されることも普通にあります。オリジナルの著者と密な信頼関係を築くのが難しいため、性善説に頼らざるを得ないのが現実ではないか」と話す。

 こうN氏が話すように、イラストにまつわるトラブルを未然に防ぐのは、非常に難しい。編集者ができることは、国内の著者であれば何度も会ってコミュニケーションを重ねることは必須だし、あとはチェック体制を厳しくするくらいであろう。図版のトレースは判定が難しいうえに、特に近年は生成AIの登場で編集者のチェックがますます大変になると言われており、抜本的な解決策が求められている。

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