『んぐまーま』『ピッツァぼうや』『ゴムあたまポンたろう』……菊池良が絵本から学んだこととは?

ナンセンス絵本から学ぶ、自由で新しい発想

ーー菊池さんは特にどういう絵本をいい作品だなと思いますか?

菊池:個人的には、発想がぶっ飛んでいてナンセンスなものが好きですね。意味がないというか。例えば『あしにょきにょき』。左足がどんどん伸びていって、家を抜け出し、街にまで到達していくストーリーなんです。

ーーそういうナンセンスな作品と、逆にメッセージ性の強い作品、2パターンがありそうな気がしました。

菊池:そうですね。欧米と比較すると、日本はナンセンスな絵本が多いんじゃないかと思いました。そういう発想がすごくうまいんですよ。

 例えば、作家でいえば、長新太さん、佐々木マキさん、馬場のぼるさんなどですね。本当にいきなり始まって、いきなり終わるし、意味はない。そんな作品が多いんです。なぜかと思ったんですけど、今挙げた3人はみなさんもともと漫画家なんですよ。漫画家から絵本作家になるパターンが結構あるみたいで。漫画文化が絵本に影響を与えていることもあるのかなと思います。

ーー今回の新刊ではその中でも長新太さん『ゴムあたまポンたろう』を紹介していましたね。改めて、どんな絵本ですか?

菊池:ゴムが頭の主人公がいて、頭をポンと叩くとどこまでも飛んでいってしまう。山などいろんなところにぶつかって、バウンドしてさらに飛んでいく。本当にそれだけなんですよ(笑)。どこかにたどり着くわけでもないですし。教訓を込めようと思えばできそうなものですけど。宇宙に行って何かに出会うとか、困難を乗り越えるというような観点も入れられる。飛び跳ねすぎて失敗して、調子に乗ることはダメだよというメッセージにもできる。でも長新太さんはそういう意味づけはせずに、ただ「飛んでいくのは面白いよね」という感じでまとめているんです。

ーーここからはどういうことが学べますか?

菊池:これは「常識の外に出る」ということですね。この作品を小説にしようとすると、飛んでいる理由づけやポンたろうの生い立ちが必要になってくる。そうすると「こうじゃなきゃいけない」という物理法則やセオリーに縛られてしまう。でもそれを全部取り外してみることで、自由で新しい発想が出てくるんです。

ーーお話を聞いていると、絵本は大人こそ読んだほうがいい気がしてきました。

菊池:そうですね。こんなに面白いものを5、6歳までの子どもしか読んでないという状況は、非常にもったいないと思うんです。僕自身、小学生になってから漫画を読むようになってしまって、それから絵本は読んでいませんでした。だから今回の本は、大人の読者に広がればと思って書きました。好きな絵本を家に置いておくと「こういう発想や世界観を忘れないぞ」と考えられると思います。

ーー自分で持っているとブックデザインを味わうこともできますね。紙の絵本の価値とはどのようなものでしょうか?

菊池:今、本は「ものとして家に置いておきたい」という方向性に向かっていると思います。村上春樹さんの豪華本が出たりしていますし。そういう動きに対して、絵本はすごく参考になります。フルカラーでデザインはこだわっていますし、子どもが読むことを考えて丈夫で実用性も兼ねている。絵本はそうした価値を先駆けて追求してきたメディアなので、これからの本のあり方を考える上でもヒントを与えてくれるのではないでしょうか。

■書籍情報
『えほん思考』
著者:菊池良
価格:1870円
発売日:2024年8月5日
出版社:晶文社

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