『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』大ヒットで注目 スターツ出版「感動プロデュース」戦略を読む

 5月には望月くらげ『冷血な鬼の皇帝の偽り寵愛妃』(スターツ出版文庫)も刊行。双子の姉を殺したと噂されている鬼の皇帝に復讐しようと入宮した妹が、皇帝から溺愛されてしまうというストーリーで読む人をドキドキとさせている。エモーショナルな作品では、九条蓮『最後の夏は、きみが消えた世界』(スターツ出版文庫)があって、全力で人生をやり直しているような少女に心惹かれていく少年が、少女の秘密を知って衝撃を受ける展開で、落涙と感動を誘っている。

 映像化されても十分にファンを引きつけ泣かせそうな作品群。まさに「感動プロデュース企業」の仕事といったところだが、今は同じようにそうした作品を求め、刊行している出版社が幾つもある。メディアワークス文庫や富士見L文庫、集英社オレンジ文庫といったライトノベルからの派生レーベルだけでなく、小学館キャラ文庫、住野よるの大ヒット作『君の膵臓をたべたい』を出した双葉社のキャラクター文芸セクションなどが、書店の文庫棚で競い合っている。

 エモーショナルな内容とSFチックな設定の組み合わせで先行した七月隆文『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』を出した宝島社文庫、気高き鬼の姫と怜悧な軍人の政略結婚がテーマとなった織都『百鬼の花嫁』を刊行するマイナビ出版ファン文庫なども力を入れているカテゴリー。大手でも角川文庫は2015年に角川キャラクター小説大賞を創設し、キャラクター性の強い作品を集めている。文藝春秋社までもが小説投稿サイトで活躍していた雨咲はなを起用した和風ファンタジー『暁からすの嫁さがし』を刊行するまでになっている。

 超人気グループのKis-My-Ft2で活躍する宮田俊哉が書いた初のライトノベルという触れ込みで話題になり、死んでしまったバンド仲間が蘇って残された人たちの心残りをひとつずつ解消していく感動ストーリー『境界のメロディ』(メディアワークス文庫)のような大型企画も動くようになった。ここで勝つには、作品の確保からその後のメディアミックス展開までをトータルで行う必要が出ている。

 スターツ出版はその点で、投稿サイトを持ってキャラクター小説系から恋愛小説系まで広く作品を集めている。出版でも女児向け単行本レーベルやボーイズライフ小説のレーベルを立ち上げターゲットの拡大を進めようとしている。これらの作品を元にしたコミカライズや映像化で実績を積んでいくことで、作品を預けてくれる好循環が作れるか、それとも老舗から新興までが入り交じる出版界がしのぎを削り合うことになるのか。いずれにしても鍵となるのは作品力。そこに各社が力を入れることで、面白い作品が続々と出てくれば読者としては嬉しい限りだろう。

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