SF考証とはどんな仕事なのか? 『ゼーガペイン』シリーズでも活躍、高島雄哉インタビュー

『ゼーガペインSTA』ポスター(C)サンライズ

 8月16日から特別上映される、『ゼーガペインSTA』。2006年に放送されたオリジナルSFアニメ『ゼーガペイン』の続編であり、本編のその後が描かれる作品である。この『ゼーガペインSTA』に「SF考証」というポジションで参加しているのが、SF小説家の高島雄哉氏だ。

 『ランドスケープと夏の定理』『不可視都市』などの小説や『21.5世紀 僕たちはどう生きるか』などのノンフィクションで知られる高島氏だが、作家として活躍すると同時にアニメやゲームにおいてSF考証家としても活躍している。2016年の『ゼーガペインADP』以降、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』『SYNDUALITY Noir』といったアニメ作品や、ゲーム『ARMORED CORE Ⅵ』など、数多くの作品にてSF考証を担当。また、作品のノベライズなども行なっている。

 アニメ作りにおける役職としてはあまり耳慣れない「SF考証」というポジションだが、いったいどのような仕事を担当しているのか。『ゼーガペインSTA』、そして合わせて発売される高島氏の小説『ホロニック:ガール』の見どころ・読みどころも聞きつつ、SF考証という仕事について語っていただいた。(しげる)

SFや科学の最先端を踏まえつつ、作品に合ったアイデアを提案

高島雄哉氏

──いきなり直球の質問なのですが、「SF考証」とはどのようなお仕事なのでしょうか?

高島雄哉(以下、高島):一言で言うと、「SFアニメやSFゲームのスタッフとして、最先端のSFや科学の見地からアイデアを提案し、その作品世界をリッチにする仕事」みたいな感じでしょうか。提案するものや実際にやる仕事は、作品ごとにかなり異なるのですが。

──「リッチにする」というのは、具体的にどういった作業を指しますか?

高島:本当に色々です。企画当初から参加して、ストーリーや舞台となる世界から作ることもありますし、ロボットや敵組織の設定を決めることもあれば、使っている文字のデザイン原案を作ることもあります。基本的にはSFや科学の最先端を踏まえつつ、あるときはまったく新しい、あるときは定番から少しだけ違うというように、作品に合ったアイデアを提案します。なのでやることは本当にバラバラなんですが、時代劇を作る時の時代考証の仕事とは、ちょっと近い部分もありますね。

──確かに、どちらも同じ「考証」ですね。

高島:時代劇を作ろうとしても、普通のスタッフさんは対象の年代の研究者とかではないので、そういう時に専門家を呼んで意見を聞きますよね。それと同じで、SFの専門家ではないスタッフのみなさんに対して、作中の各要素にSFとしての面白さや楽しさがあるか意見したり、アイデアを出したりということで呼ばれます。あと、海外ゲームではSF考証のことをWorld Builderとクレジットすることもあり、作中世界の仕組みから各種美術設定まで、作品全体に関わっていくことも多いです。

──作品世界を1から構築することもあるんですね。

高島:最近は僕も脚本も書いているということもあり、0からというか、「なんか面白いアイデアないですか」というところから聞かれたりすることもありますね。基本的には漫画原作なりオリジナルのアニメなりという企画があって、ジャンルはSFでロボットとかAIとかタイムマシンとかが出てくるという作品に対して、例えば「ちゃんと最近の理論物理とかを踏まえた現代的なタイムマシンになっているか」とかを考えることが多いです。

──科学的な部分の正誤に関するチェックもするんでしょうか。

高島:科学考証に近い仕事もするというか、例えば「無重力空間での動き方はこれで正しいか」みたいな科学的事実について検証もしますし、自分の知識で答えることもあれば取材することもあります。専門の研究者に対して質問する際にも、SF考証家が中心になって質問を作成したりします。

──本当に、作品作りにおいてSFと科学に関することはなんでもやるんですね。もっとも基礎的な部分から関わったものだと、どのような作品がありますか?

高島雄哉『はじまりの青 シンデュアリティ:ルーツ』(東京創元社)

高島:ゲームとアニメどちらもSF考証を担当した《SYNDUALITY》シリーズです。青い雨によって崩壊した世界で人類がAIとともにメカを駆る作品で、世界崩壊の原因や新世界全般の設計など、色々作っています。TVアニメ『SYNDUALITY Noir』は2023年に放送され、ゲーム『SYNDUALITY Echo of Ada』はただいま絶賛開発中です。僕はスピンオフ小説『はじまりの青 シンデュアリティ:ルーツ』を書いていますので、合わせてお楽しみいただければと思います。 あと同じくらい仕事量が多かったのは『機動戦士ガンダム 水星の魔女』でしょうか。前日譚である「PROLOGUE」の制作中から参加して、「アド・ステラ」とか「フロント」とかのネーミングは自分が担当しました。あと、軌道エレベーターの仕組みみたいな部分など、様々なアイデアを出しています。ただ、この「アド・ステラ」も、最初はもうちょっと後ろが長かったんですよ。ラテン語なんですけど。それを「もうちょっと短くしよう」と監督が調整して、短く「アド・ステラ」となりました。そういう感じで、監督やスタッフの皆さんが選べるようなアイデアをたくさん出すのも、SF考証の仕事です。

──主要スタッフとはかなり密にコミュニケーションをとるんですね。

高島:みんなと喋りながらアイデアを出すので、どこからどこまで自分がやったと言いづらいところもあります。『ゼーガペインSTA』に関しても「サブスタンスシェイド」という名前の能力が出てくるんですが、これもいくつかネーミングの案を出して、それを松村プロデューサーが「これがいいんじゃないですか」って決定した感じです。メカデザインのお手伝いをすることもありますし、本当に色々やることがあるんです。

考証した要素を最終的にどう映像に落とし込むかは常に考える

──SF考証という仕事は、いつ頃から存在しているんでしょうか?

高島:テレビアニメにおける日本初のSF考証、ということは世界初でもあるんですが、そういったお仕事を最初にやったのは、柴野拓美さん(ペンネームは小隅黎(こずみ・れい))です。柴野さんをSF考証として起用した初の作品が、1965年放送の『宇宙エース』ですね。国産初のテレビアニメは1963年の『鉄腕アトム』で、これは手塚先生が直接作っているのでSF考証は不必要だったんです。この『宇宙エース』以来、およそ20人ほどの方がアニメ作品でのSF考証を行っています。2024年現在では、10人弱の方がSF考証家としてお仕事をされていますね。

──ほぼ日本のアニメの黎明期からあるお仕事なんですね……。高島さんがSF考証家という仕事を始める経緯は、どのようなものだったんでしょうか?

高島:僕の場合、創元SF短編賞を受賞して、受賞作がすぐにKindleで出たのが大きかったんですよ。受賞から数ヶ月くらいで普通に読めるようになったんで、それを『ゼーガペイン』の原作の幡池裕行さんに読んでいただけて、そこで『ゼーガペインADP』のSF考証として呼んでいただいた……という経緯です。10年くらい前の話です。

──いきなり連絡が来るってすごいですね……。

高島:今でもX(旧Twitter)のDMでご連絡いただくことはあったりしますね。ただ、『ゼーガペイン』も20年近く前の作品なのにVRゴーグルが出てきたりしてましたが、10年前ってそこまで電子書籍が普及していたわけでもないんですよね。その頃からKindleで新人作家の作品を読んでいたわけで、やはり幡池さんはすごいなと。

──SF小説とSF考証とで、仕事内容の違いに戸惑ったりはしなかったんでしょうか?

高島:う~ん……自分の場合なんですが、小説を書く時と考証として作品作りに参加する時とで、あんまり頭の違う部分を使っている感じはないんです。仕事内容も結構似ていて、最終的なアウトプットである小説とアニメというふたつのメディアの特性に合わせて、文章で表現してこそ面白いものにするか映像にすると面白い内容にするか、というところが違うくらいです。あとは、どこまで最先端の内容を詰め込むかというところは違うかもしれません。

──どういうことでしょうか?

高島:僕はSF小説家としては、なるべく新しいもの、誰も書いていないものを書こうという気持ちがあります。だから最先端の科学的知見を盛り込んだ作品を描くことが多いんですが、一方で、より広いターゲットを相手にするアニメやゲームだと、最先端で誰も見たことがないものにしてしまうとついていけない人が出てしまう。なので、SF考証の仕事では、最先端のSF要素を盛り込まなくてはならないかというと、必ずしもそうでもないこともあります。ただ、『ゼーガペイン』が2006年の時点であの尖った内容を盛り込んでいる作品であるように、SF小説家の界隈があまり取り込めていなかった内容をアニメの皆さんが先に突っ込んでリサーチしていたりして、教えられることも多いです。

──他に、SF小説とSF考証の違いや大変だったことはありますか?

高島:『ゼーガペインADP』の時に、下田正美監督から「映像化のことを考えて考証をしてください」という点は教えていただきました。アニメなので、考証した内容も当然映像にしなくては意味がない。僕が好きなのは数学とか理論物理なんで、基本的に数式なんですよね。『ゼーガペイン』はアニメ本編の頃からCGを多用していますが、そこに現代数学の要素を入れたらSF的に面白くなるかと思って、グラフとかの形で提案したんです。だけど、「これはCGに落とし込むのが大変だね」と言われてしまったことがありました。アニメ製作において、CGやキャラクターを作ることの何がどう大変なのか、よくわかっていなかったというのはあったかもしれません。

高島氏が使っている、立体図形の描画や解析ができる関数電卓

──実作業の経験がないとわからないところですね。

高島:なので、考証した要素を最終的にどう映像に落とし込むかは常に考えるようにしています。この辺りに関しては、昔よりマシになっていればいいんですが……(笑)。ただ、自分の作品にどういうガジェットを出すかとか、どういうテーマだったらSF的に面白いか、みたいな部分は小説を書く時も考証する時にも共通して考えることなので、「仕事内容が違いすぎてめちゃくちゃ困った」みたいなこともあんまり記憶にないんです。

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