「ダイヤモンドの強みを再定義する」週刊ダイヤモンド編集長・浅島亮子のビジョンと3つの価値観を聞く

■数字だけにとらわれない

良質な記事が途切れることがないように記者の育成にも力を入れる。

――その一方で、ダイヤモンドさんは決して一般受けするとは思えない、硬派な記事もUPしています。数字とは関係なく、今書くべき記事を書くという信念を感じます。

浅島:おっしゃる通りです。書くべき時に記事を書くことも継続しないといけないので、数字だけにとらわれないようにしています。記者に対しては、数字はあんまりとれていなくても、記事の質が高ければ「この記事は良かったね」と褒めるようにしています。週に1、2回のデスク会議でも、企業を頑張って取材したとか、スクープではないけれど、世の中の誰も知らない事実を書いているなどのプラスの面があれば、しっかりと褒めるようにしています。そういった「良質な記事」がなければダイヤモンドのブランドは守れないんですよ。

――素晴らしいですね。

浅島:数字ばかり気にすると「いい記事って何なんだ」ということがわからなくなってしまうんです。ネットでは、大したことがない記事なのに、数字がとれてしまうこともありますから。

「記者&編集者の教科書」。ダイヤモンドのこれまでの編集方針やさまざまな蓄積が集約されたまさにコンフィデンシャルの内容が詰まっている。

――記事の質を上げ、ブランド力を高めるために心がけていることはありますか。

浅島:副編集長2人が中心となって作った門外不出の「記者&編集者の教科書」、通称「進化する教科書」というものがあります。社内でも編集部員以外の人は見ることができないものです。そこには人脈構築から、取材成功の秘訣や失敗まで、これまでのあらゆる実例が入っている内容で、まさにダイヤモンドの宝のようなものです。そして、定期的に先輩がこの「進化する教科書」をもとに若手に語ってくれる場を設けています。

■既存メディアの強みとは

――ダイヤモンド社がこれまで培ったノウハウというのは、まさに圧倒的な強みと言えそうですね。

浅島:私がダイヤモンド社に就職した頃は、取材先である企業の広報部の方々が記者を育ててくれたんです。ところが、コロナで企業とのリアルなコミュニケーションが希薄になってしまった。記者が育てていただくという機会が少なくなってしまったんですね。ですので編集部内でのノウハウ共有と記者の育成には力を入れています。

――誰もが情報の発信者になれる時代だからこそ、既存メディアが発揮できる強みはどこあると思いますか。

浅島:ダイヤモンドならではの価値観が強みだと思っていて、“3つの迫る”を定義しました。1つ目が“データ”で迫る。2つめが“忖度なし”で迫る。そして、3つめが“企業産業の最深部”に迫る、ということです。1つ目はデータジャーナリズムであり、最深部に迫るためには1と2の中立性を担保することが大切です。

――ブロガーやインフルエンサーは簡単にはできないことですね。

浅島:はい。そして取材を重ねてどこまでも1次情報に当たることを重視しています。ここまでしないと、読者にお金を出してもらえるコンテンツにはならないと考えています。

――データ担当の記者にも、かなり高いスキルが求められると思います。

浅島:企業の取材ができて、なおかつデータにも強い人は少ないですね。ただ、社内にはコアになる記者が3~4人いるので、独自のランキングなど、データを駆使した数字で見せる特集を追求できるのも強みです。

■忖度なしの誌面作りを続ける

――記事の執筆に当たり、忖度排除を公言されていますが、ネットニュースは何かと広告主に忖度してしまう側面があります。

浅島:企業側にマイナスな記事を書くと、タイトルを変えろ、内容を変えろ、記事を引き上げろ、担当者を変えろといった要求が常にあります。昔は毅然と対応していましたが、最近は他メディアの財務状況が落ち込んでいるせいか、メディア側がなかなか跳ね返さなくなってきている側面があると思います。結果、企業がメディアを事実上抱え込み、馴れ合いになってきている状況が散見されます。

――忖度しない記事作りのために心がけていることはありますか。

浅島:プロフェッショナルな記者集団の組織化を進めています。ダイヤモンドは企業に対して批判的だ、厳しい、と言われますが、あくまでもニュートラルな記事作りに徹するように心がけています。こうした方針を貫けるのは、ひとえに経営陣の理解が大きいですね。

――今後、ダイヤモンドをどのようなメディアにしていきたいのか、具体的なビジョンはありますか。

浅島:優秀な書き手やメディアとはいろいろな挑戦をしていきたいと思っています。具体的には、優秀なアナリストやジャーナリストには、ダイヤモンドだけに特別な記事を書いてもらえるよう、コミュニケーションを密にとっています。また、専門誌とのコラボもやっていきたいです。

 現在コアな読者層はビジネスパーソンですが、若者にももっとリーチしたい。例えば動画をカスタマイズして、学生も読んでもらえるような記事を作っていきたいですね。王道を継続しつつ、ゲリラ的な企画にも取り組む。あの手この手で盛り立てていきたいと思っています。

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