歌人・枡野浩一、なぜ「タイタン」所属の芸人に?「錦鯉さんの後輩としても、もう一度やり直したかった」

自分を生かせる場所を探っていきたい

タイタンの学校の素晴らしさについて熱弁

――タイタンの学校ではどのようなカリキュラムが行われるんですか?

枡野:芸人コースと一般コースがあって、水曜は芸人だけ、土曜は芸人コースと一般コースの合同なんですが、書道やラップ、禁煙CMを作ってコンテストに応募したり、光代社長がロボットの開発者を連れてきてロボットの話をするっていう謎の講義があったり(笑)。お笑いに直接は関係ないカルチャースクールみたいな講座がいっぱいあるんですよ。本当にいろんな教養を学べます。

――すごく幅広いジャンルの講座があるんですね。

枡野:もちろん発声や、タイタンの芸人さんのコントの台本をカバーするっていう養成所らしい講座もあります。芸人コースでは、ネタ作りから、ネタ見せ、月2回の定期ライブなどがあって、厳しい宿題も出るので大変なんですけど、楽しくて。僕はほとんど休まなかったです。とにかく学校を優先して仕事断っていたら、とても驚かれましたね。でもそれくらい学校に力を入れていたんです。

――こうしてお話を聞いていると、枡野さんってかなりの好奇心がありますよね。いろんなことをやってみようって実際に行動に移している。

枡野:そうなんですかね。でも僕、何事もやってみないとわからないと思っているんです。頭で考えてやらない選択をする人よりも、やってみて失敗するタイプの人が好きだから、自分もそうなりたいと思っているのかもしれません。

 だから短歌もそう。歌人の在り方として、下手でもステージの上や、映像(テレビなど)で、短歌を伝えるような新しいことをやりたくて。使命感みたいなものがあるんです。

<あじさいがぶつかりそうな大きさで咲いていて今ぶつかったとこ>という自身の短歌を再現してくれた

――最近では、Eテレの「NHK短歌」という短歌番組に出られていたり、さまざまな場所で短歌の講演をされいますもんね。

枡野:タイタンの学校に入ったら、なぜか短歌の仕事が増えていったんです。講演会が次々と決まったり、短歌の本の解説や帯を書いたり……不思議ですよね。

 僕は結社などに入らず独自に短歌をやってきたので、一部では支持してくれる人もいますが、少し前まで風当りは強かったんです。「歌人さん」という芸名にしているのは、それへの反発も多少はあって。“歌人といえば枡野”となれば面白いかな、というふざけた気持ちもありますね。

選者として出演する「NHK短歌」には、毎回、2000以上もの短歌が届くという。
「短歌を選びながら寝たこともあって、そんなドラマみたいなことが自分の人生にあると思わなかった」

――先日開催されたタイタンのお笑いライブも拝見しましたが、短歌芸人として新たなジャンルを切り開いていると感じました。

枡野:ありがとうございます。僕が一人ぼっちで寂しいからパートナーとして人形を使っているっていう悲しい設定で、短歌を詠むというネタですね。でも僕、リハーサルで輝くタイプなんです。初めて話すときのエネルギーが大事みたいで、一回目が一番面白いってよく言われます(笑)。稽古を重ねるとどんどんつまらなくなるという……今の課題ですね。

――今後、歌人として、芸人として、どのように活動していきたいですか?

枡野:まずはNHKの番組など、今ある仕事をしっかりとやりたいです。そして、それを見た人に「この人面白いから仕事頼みたい」と思ってもらいたい。だから、すごく当たり前なんですけど、真剣に取り組んでいます。今までは避けてきたような仕事も、需要があってできることがあればやってみたいですね。

 それから自分でライブを企画したり、お笑いじゃない文脈で呼ばれたときにちょっとネタを混ぜてみるとか、場数を踏んで自分を生かせるところを探っていきたいです。面白い芸人さんをずっと見てきて、売れている人たちに魅力があるのはわかっているから、もちろん頑張りますが、お笑いの賞レースなどで勝ち抜くイメージはあまりできなくて。でも一風変わった枠のオーディションや、ライブでも箸休め的に変な人を混ぜたいことがあると思うので、そういうときに、短歌芸人として隙間産業的に自分が入る余地はあるのかなと思っています。

未来を見つめる枡野さん。よく似合っているジャケットや、短歌Tシャツをつくった服飾デザイナーは古い友人という

――年齢を重ねながらも新しいことに挑戦されている姿にとても勇気づけられます。

枡野:前に芸人活動をしていたときと違って今は同期がいることがすごく良くて、どんなに歳が離れていても建前上は同期だから。少なくとも僕は同期だと思っているし、友達だと思っている。彼らのライブを見に行くと受付を頼んでくれたり、前説をやらせてくれたりして、そういうことがとてもうれしいんです。自分の企画するライブにも出てほしいし、同期や芸人仲間が「これは面白い!」と言ってくれるネタを作ることが今の目標ですね。まだまだ先は長いです。

梅雨前のとある日、阿佐ヶ谷、タイタン事務所付近の路地にて

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