眞邊明人×浜辺美波×赤楚衛二『もしも徳川家康が総理大臣になったら』鼎談 「歴史に興味がない若い人たちにこそ観て頂きたい」
『テルマエ・ロマエ』『翔んで埼玉』など数々のコメディ作品の実写化を手がけてきた武内英樹が監督を務める映画『もしも徳川家康が総理大臣になったら』が、7月26日より公開される。
本作は、コロナ禍真っ只中の2020年、総理が急死した日本を舞台に「“もしも”歴史上の偉人がコロナ禍の日本に現れたら、どうやってピンチを乗り越えるのだろう?」という夢物語を描いた眞邊明人による同名小説を実写映画化したもの。2021年に出版された原作は、累計発行部数17万部を突破しており、コミカライズもされている。
テレビ局政治部の新人記者として、最強内閣のスクープを狙う主人公・西村理沙を浜辺美波が演じるほか、歴史的偉人の中から、内閣官房長官・坂本龍馬を赤楚衛二、経済産業大臣・織田信長をGACKT、財務大臣・豊臣秀吉を竹中直人、内閣総理大臣・徳川家康を野村萬斎がそれぞれ演じる。そのほか、偉人内閣を構成する新たなキャストとして、髙嶋政宏、江口のりこ、池田鉄洋、小手伸也、長井短、観月ありさの出演も決定している。
映画の公開を記念して、リアルサウンド ブックでは原作者の眞邊明人、主人公・西村理沙を演じた浜辺美波、内閣官房長官・坂本龍馬を演じた赤楚衛二による鼎談を行った。浜辺美波と赤楚衛二はそれぞれの役どころをどう捉えたのか。そして原作者の眞邊明人が本作に込めたメッセージとは。
浜辺美波と赤楚衛二の役どころは?
――この座組での取材は、今回が初めてということですね。
赤楚衛二(以下、赤楚):そうですね。原作者の方と一緒に取材を受ける機会は、なかなかないですよね。
浜辺美波(以下、浜辺):ないです。いちばん緊張するかもしれません(笑)。
眞邊明人(以下、眞邊):いやいや(笑)。
――では、お二人がいちばん気になっているであろうことから聞いてしまいますね。眞邊さんは、今回の映画をご覧になっていかがでしたか?
浜辺:きゃー。
眞邊:(笑)。2時間ぐらいの映画でしたけど、本当にあっという間でした。それぐらい面白く観たというか、原作小説も前半と後半で少しトーンが異なるのですが、映画もきっちり前半と後半で分かれていて。前半は、すごくゴージャスと言いますか、いわゆる武内英樹監督の世界観が全開になっていて。
浜辺:はい(笑)。
眞邊:後半は、まさしく浜辺さんと赤楚さんのおふたりが中心となって物語を牽引していくようなところがありました。原作小説を書いているときから、浜辺さんが演じられた「新人記者・西村理沙」と、赤楚さんが演じられた「坂本龍馬」は、この物語のいちばんのキーとなる人物だと思っていたんです。歴史上の偉人がたくさん登場するだけでは、現代と繋がりにくいところがあります。一般の人たちと偉人たちのあいだを繋ぐような存在としての「西村理沙」と、偉人たちの中でも感性的に我々と近いであろう「坂本龍馬」――この組み合わせがすごく重要だったんです。それを見事に演じていただいたので、僕としてはすごく満足でした。ありがとうございました。
浜辺:いえいえ、こちらこそ……。
赤楚:ちょっと、ホッとしました(笑)。
――本作は、かなり変わった作品といいますか、歴史上の偉人たちによる最強内閣を取材する新人記者、そして現代によみがえった坂本龍馬をそれぞれ演じるということで、なかなか役作りが難しいところもあったんじゃないですか?
赤楚:今、眞邊先生がおっしゃられたように、現代の人との懸け橋になる役どころのため、あまり偉人になり過ぎないようには意識していました。僕自身、実は今回が初めての歴史モノだったんですよね。そのため、ちょっと慣れていないところがあったんですけど、歴史上の人物ではありつつもその舞台となるのは現代で、ちょうど良い塩梅の役どころだったのかもしれません。
――とはいえ「坂本龍馬」と言えば、これまで数々の名優が演じてきた役でもあるわけで。
赤楚:そのプレッシャーはたしかにありました。今まで龍馬を演じられてきた役者さんは、みなさん素晴らしい役者さんだったので。僕は歴代の龍馬役の中でも、かなり若い部類に入ると思います。
――ただ、実際の龍馬は、31歳で亡くなっているので……。
赤楚:実はまさに、僕と同じぐらいの年齢のときに活躍しているんですよね。ただ、龍馬のように時代を変えていくような強いエネルギーを、今の僕が持っているかって言われると難しい。そもそも、そういうエネルギーを持っている現代人はかなり稀だと思います。でも、だからこそ強いエネルギーを誰よりも持たなければいけないという心構えで、今回演じさせていただきました。
――体重を絞るなど、かなりシャープな龍馬だったので、少し驚きました。
赤楚:そのあたりは、武内監督の希望もありました。
浜辺:カッコ良い龍馬をね(笑)。武内監督も歴史がお好きなので、龍馬に対しても、いろいろ思い入れがあったみたいです。
――そんな浜辺さんは、錚々たる偉人の中で唯一、普通の人ですね。
浜辺:はい。私はこの中で唯一の一般人です。偉人の役だったらどうしようと思っていたところもあったのですが(笑)、今回は新人の記者役ということで、目線としては視聴者のみなさまに近い。みなさんと一緒になって、歴史を学びながら取材をしていくという役どころでしたし、実際の年齢に見合った年相応の役どころだったので、自分自身が偉人のみなさんと対峙したときに感じる緊張感だったり、最初はちょっとリアルに思えないというか、現実を受け入れられない感じだったり、そういうところも演じられたらいいなというふうに思っていました。
――浜辺さんが、実年齢に見合った普通の役を演じるのって、実は意外と珍しいですよね?
浜辺:そうなんです(笑)。ちょっと特殊な役を演じることが多かったので、みなさんが特殊で私だけが普通というのは意外と珍しくて。なので、悩みながらではありましたが、できるだけ等身大な感じで演じさせていただきました。
――そこがリアルだったというか、偉人たちを前にしても、あまりピンとこない感じと言いますか(笑)、歴史についてあまり詳しくないところから、坂本龍馬をはじめ、徐々に偉人たちに興味を持っていく感じがすごく自然で良かったです。
浜辺:ありがとうございます(笑)。
眞邊:まあ、ほとんどの人は歴史にすごく興味があるというわけではないですからね。だけど実際に偉人たちを目の前にしたら、やっぱりちょっと気になるっていう。その塩梅が自然で、共感できる部分だったと思います。
この物語のいちばんのメッセージとは?
――ところで眞邊さんは、そもそもこの小説をどんなきっかけで書こうと思ったのですか?
眞邊:もともとは、徳川家康を主人公とした別の話を書いていたんですけど、編集者からダメ出しを食らいまして(笑)。じゃあ、どうしようかというときにコロナ禍に入ったんです。その編集者はちょうど子どもが生まれたばかりだったんですけど、当時の政府も右往左往していたからものすごく不安になっていて。こんな国で大丈夫なんだろうかと。じゃあ、歴史上の偉人たちで、理想の内閣を作ってみようかという話になったのが、そもそもの始まりでした。
――ちょうどコロナ禍に入り始めた頃だったんですね。
眞邊:そうなんです。まあ、組閣に関してはほぼ大喜利みたいな感じでした(笑)。ただ、家康を総理大臣にするとなると、秀吉と信長がいないとうまく語れない部分があります。最終的に家康は、彼らの政策をほとんど受け継いでいるので、やはり「三英傑」は揃えようと。あとは、時代のバランスとか並びを考えながら組閣していきました。ただ、坂本龍馬だけは、最初から絶対入れようと思っていたんです。
――というと?
眞邊:歴史上の人物で内閣を作るというような話は、歴史好きなら誰もが一回は考えることだと思うんですけれど、そうやって広げた風呂敷を最後にどう閉じるのか、つまり物語の終わり方がすごく大事だと思っていて。それで最終的には「大政奉還」という形で元に戻すという風呂敷の閉じ方を着想したんです。
――なるほど。「最強内閣誕生!」だけではなく、その「閉じ方」を想定した上で書き始めたと。
眞邊:そうなんです。あともうひとつ、当時思っていたのは、日本人って困難な状況になればなるほど、偉大なリーダーを求めがちじゃないですか。だけど、いざ平和になったら、その人のことを今度は独裁者って言うんです。そこに僕はちょっと不満があって。そういうリーダーを求めているのは我々自身であるというか、良きにせよ悪しきにせよ、今の社会の状況を作り出しているのはひとりのリーダーではなく、その人を選んだ我々自身なんですよね。それが実は、この物語のいちばんのメッセージなんです。