【漫画】「アリとキリギリス」がモチーフの漫画、丁寧に描かれているのに何が問題? プロの添削で劇的変化

 各種アプリやウェブサービスの広がりにより、多くのクリエイターが世の中に漫画を届けることができるようになった。「人気作家」への道は相変わらず険しいものだが、SNSで創作漫画を発表して人気を獲得し、商業連載につなげたヒット作も続々と登場。しかし同時に、「独学」ゆえの悩みを抱えたクリエイターも少なくない状況だ。

 そんななかで、YouTubeでプロの漫画家やイラストレーターがその技術や心構えを伝えるチャンネルが人気を集めている。「漫画」というジャンルでトップランナーといえるのが、元週刊少年漫画誌の連載作家・ペガサスハイド氏だ。解説のわかりやすさ・的確さとともに、読者から募った作品を添削する人気企画では相談者の個性に寄り添ったアドバイスが心地よく、自分では漫画を描かない人も楽しく視聴することができるのが特徴だ。

 そんなハイド氏が4月末、「【神回】あなたの漫画が認められない理由はたった1つ〜漫画添削No.91〜」と題した動画を公開した。「神回」と銘打たれているだけあり、プロの漫画家になるために必要な心得が端的に語られた、“教材”と言えるような内容になっている。

【神回】あなたの漫画が認められない理由はたった1つ〜漫画添削No.91〜

 今回添削することになったのは、漫画家デビューを目指しているがなかなか読者に恵まれず、「なぜ読まれないかわからない」と悩むクリエイターの作品。イソップ寓話「アリとキリギリス」をモチーフに、お腹を空かせたキリギリスがアリに取引を持ちかける……という1シーンだ。

 ハイド氏の添削動画は「いいところ」を評価するところからスタートする。今回の作品に対しても「絵がとても丁寧で、隅々まで手を抜かず描かれていることに好感を持ちました」と切り出すと、人物だけでなく、背景や演出効果、書き文字に至るまで、「人に見られること意識して、ちゃんとした仕事をしている」と評価した。キャラクターの衣装や造形から、「虫の世界」であることがきちんと伝わり、またキャラクターに読者の意識を向けようという工夫も見られる……と、なかなかの高評価だ。果たしてどんな改善点があるのか?

 詳しくは動画を直接視聴してもらいたいところだが、ハイド氏はいつものように、元の作品をベースにネームを引き直し、ポイントを整理していく。1点目は、「主役と脇役」をわかりやすく提示すること。ハイド氏のネームではキリギリスにフォーカスし、明らかに主役であることが伝わる内容になっている。確かに見比べてみると、元の漫画はどのキャラクターも丁寧に描かれている反面、メリハリに欠け、主役が誰なのかがわかりづらかった。

 2点目は、キャラクターの表情に華を持たせること。関連して、3点目は主人公を魅力的に描くポイントが伝えられた。特に男性のクリエイターの場合、現実問題として「男性に興味がない」ことが多いため、実は男性の主人公を魅力的に描けないケースが多いという。表面的な技術だけで描くと華のあるキャラクターにはならず、確かに添削前の漫画を見ると、どこか教科書的な味気なさを感じてしまう。絵の技術とはまた別に、魅力的な人物とは、という問いを掘り下げてこそ、“読ませる”キャラクターが誕生するということだろう。

 その他、多くの具体的なアドバイスが行われたが、プロを目指すクリエイターに刺さるだろうメッセージとして、「うまい・早い・丁寧は武器にならない(プロは全員そうだから)」という言葉もあった。技術や創作に対する誠実さは前提として、いかに魅力的な物語とキャラクターを作り上げるか。そのヒントが詰まった動画を、ぜひチェックしていただきたい。

■参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=sxyfobEYypY

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