『ゴールデンカムイ』だけじゃないーー格ゲー原作や巨匠作品まで、アイヌ文化の奥深さを知るための漫画3選

  実写化された『ゴールデンカムイ』が好評である。 公開されてわずか17日間で観客動員数111万人、興行収入16.3億円を突破し、レビューサイトでも概ね好評である。筆者も鑑賞したが、マンガ原作特有のコスプレ感を多少は残しつつも、実写であることに違和感の無いレベルにビジュアルを落とし込んでいた。アクションを得意とする久保茂昭監督の職人芸も見事だった。

  WOWOWで続きがテレビシリーズになるとの発表もあり、実写版ひとつとっても息の長いコンテンツになりそうである。映画のスタッフ、キャストの続投も発表されており出来栄えも期待できそうだ。原作の連載が終了して記事執筆時点で早2年近くが経つが、TVアニメの最終章制作も決定しており、まだまだ熱は冷めそうにない。

  明治の北海道を舞台にした『ゴールデンカムイ』はアイヌ文化に関する描写を前面に押し出している。ここまでアイヌ文化を前面に押し出し、なおかつこれほどポピュラーになった作品は他に例がない。ここでは敢えて『ゴールデンカムイ』以外でアイヌを取り上げたマンガを取り上げてみることとする。

■内藤泰弘『サムライスピリッツ』(徳間書店)

内藤泰弘『サムライスピリッツ』(徳間書店 

  まずはSNKの対戦型格闘ゲーム『サムライスピリッツ』を原作とした本作を挙げておこう。正確には同シリーズに登場するナコルルがアイヌの巫女という設定である。ゲームが非常に息の長いシリーズ(一作目の発表は1993年)になったこともあり、アシリパ登場以前に最も有名なアイヌのキャラクターはナコルルだったかもしれない。

  シリーズ内でも人気のキャラクターであり、ナコルルを主人公にしたオリジナルアニメ『ナコルル-あのひとからのおくりもの』も発表された。後に妹のリムルルもプレイヤブルキャラクターとして登場している。

  ここで紹介するのは知る人ぞ知る『サムライスピリッツ』のコミカライズの傑作である。作者の名前を見て驚かれた方も多いであろう、何とコミカライズ担当は『トライガン』『血界戦線』シリーズの内藤泰弘氏である。

  本作は内藤氏が『トライガン』で有名になる前の連載で、ゲーム雑誌のファミリーコンピューターマガジンに掲載されていた。ゲーム原作としながら内容はほとんど内藤氏のオリジナルで、何と天草四郎以外の敵役はほぼ全員オリジナルキャラクターである。さらに主人公、覇王丸にあこがれる小綱という少年のキャラクターが重要な役割を果たす。

  血なまぐさく重厚な、青年誌掲載が適切と思われる内容で、内藤氏のファンにはかなり強くお勧めできる。残念ながら打ち切りの憂き目に遭ってしまったようで、最後は唐突に終わってしまう。本来の内藤氏の構想ではどうなっていたのか、個人的に非常に気になる作品である。

  蝦夷(北海道。同作は江戸初期が舞台)が舞台のエピソードもあり、ナコルルと原作には登場しないナコルルの仲間たちも登場する。ビジュアルは『ゴールデンカムイ』に通じるところがあり、装束や文化、弓矢を使った戦闘方などは内藤氏も執筆にあたって取材をしたものと思われる。

■武井宏之『シャーマンキング』(講談社)

武井宏之『シャーマンキング』(講談社)

  こちらも『サムライスピリッツ』と同じく、作品全体ではなくキャラクターの一人、ホロホロ/碓氷ホロケウがアイヌ文化をバックグランドとしている。ホロホロは北海道から上京してきたアイヌのシャーマンという設定であり、ナコルルと何となくイメージが共通する。違うのは戦闘スタイルである。

  ナコルルが短刀と鷹で戦うのに対し、ホロホロはスピリチュアルな戦い方をする。ホロホロが利用するのは大地の精霊・コロポックルで、コロポックルはアイヌの伝承に登場するカムイの一種である。カムイは「神」と訳されることもあるが、実際は「精霊」と言った方がより感覚的に近く、そういう意味で『シャーマンキング』は正しくカムイを描いていると言えそうである。

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