『忘却バッテリー』だけじゃない!「天才」をテーマとした野球漫画が次々とブレイク候補に
『巨人の星』や『ドカベン』から始まり、現在でも多くの読者を夢中にさせている野球漫画というジャンル。だが一口に野球漫画といっても、その内容は多岐にわたっており、さまざまなテーマが入り乱れている。とくにここ最近では、なぜか「天才」をテーマにした野球漫画が次々と登場し、大ブレイクの兆しを見せているようだ。
ネクストブレイクの筆頭として、注目が集まっているのは、みかわ絵子による『忘却バッテリー』。同作は漫画アプリ『少年ジャンプ+』で2018年から連載されている人気作で、8月3日にTVアニメ化が発表されたことでますます注目度が高まっている。
その魅力的な物語において、大きな軸となっているのが2人の主人公、要圭と清峰葉流火だ。シニア時代、冷静沈着な“智将捕手”として名を知られた要と、140キロの剛腕投手であり完全無欠のスターだった清峰。まさに神に愛された天才であり、彼らは圧倒的な実力から「怪物バッテリー」として周囲を恐れさせた。
しかしそんな2人は、なぜか高校入学のタイミングで野球界から姿を消してしまう。実は、要は記憶喪失になったことで、野球に関するほとんどの知識を失っていたのだ。
さらに同作を魅力的にしているのが、同じ野球部の仲間となるキャラクターたちだ。彼らはかつて才能あふれる選手だったが、怪物バッテリーに心を折られ、まともな野球部が存在しない高校に入学した。しかし運命のいたずらで同じ野球部に加わり、甲子園を目指していくことになる。
名門高校ではなく、弱将校が甲子園の頂点を目指す物語は、ある意味王道だが、一歩間違えればファンタジーになりかねない。記憶喪失の元・天才というユニークな設定は、そんな展開に説得力を持たせることに成功していると言えるだろう。
周囲をおかしくさせるほどの才能は罪なのか?
また、今年2月から「週刊ヤングジャンプ」で連載が始まった平井大橋の『ダイヤモンドの功罪』も、天才を題材とした野球漫画だ。ただし、こちらは『忘却バッテリー』とは異なり、存在するだけで周囲を狂わせてしまう天才の暴力性に焦点が当たっている。
主人公・綾瀬川治郎はスポーツに関して圧倒的な才能をもつ少年。水泳や体操、テニスなど、何をやっても他人より秀でており、地道に努力する人間の心を打ち砕く存在だ。綾瀬川自身は、ただ友人たちと楽しくスポーツに打ち込みたいだけなのだが、天賦の才がそれを許さない──。
天才ゆえの苦悩に密着したストーリーは、野球漫画に限らずともオリジナリティに満ちている。第1話の冒頭で、「野球 選んでよかったなんて思ったこと 一回もねえよ」という強烈なモノローグが飛び出すことからも、同作が通常の野球漫画とは大きく違った作品であることが分かるだろう。
すでに多くの漫画好きに注目されているようで、今年8月には『次にくるマンガ大賞2023』のコミックス部門で7位にランクインしたことも話題に。投票開始のタイミングが、単行本1巻の発売日からわずか4日後だったことを考えると、まさに快挙だ。
さらに「週刊ヤングマガジン」では、2人の天才による運命的な対決を描いた『シキュウジ -高校球児に明日はない-』という作品が連載中。同作は今年6月から始まった大沼隆揮(原作)・ツルシマ(作画)による連載作品で、そのストーリー展開は独創的と言うほかない。
なにせ同作の幕開けは、甲子園の決勝から始まる。延長45回、3日にわたって繰り広げられた伝説の死闘、その立役者が「神の子」天城雄大と「怪物」佐藤さとるという規格外の高校球児たちだった。物語はそこから遡る形で、2人の壮絶な運命を辿っていく。
天才という存在について、さまざまな角度からアプローチを仕掛ける3つの野球漫画。『忘却バッテリー』以外はまだ連載が始まったばかりだが、ここから“天才野球漫画”の一大ムーブメントが巻き起こる可能性もあるかもしれない。