『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』なぜシリーズ最高記録を達成? 「21世紀のガンダム」ヒットの背景
さらに大ヒットの要因として、「うまく20年間コンテンツを寝かせた」という点がある。元々『ガンダムSEED』劇場版の制作は2006年にアナウンスされており、2007年には公開される予定だった。が、その後様々な事情から劇場版は立ち消えになり、シリーズの正統続編となる映像コンテンツは制作されないままの状態が続いた。
しかし、その間も『ガンダムSEED』は完全に休眠していたわけではなかった。定期的に登場モビルスーツのプラモデルやキャラクターのフィギュアが発売され続け、様々な媒体で外伝も発表され、上海では実物大フリーダムガンダムまで完成した。『ガンダムSEED』は、人々の記憶から消えない程度に新たな商材が販売され続けたのである。
この、「20年の間、定期的に関連商品が発売されつつ寝かされた」という点は、『SEED FREEDOM』大ヒットの大きな要因であるように思う。前述のように、『ガンダムSEED』は良きにつけ悪しきにつけ議論を呼んだ作品だった。しかし、20年経ったことで当時のトゲトゲした記憶もある程度薄れ、「良くも悪くも『SEED』はこういう味付けの作品だったし、むしろこの味が懐かしい」と観客が受け入れる素地ができていたのではないだろうか。
加えて、当時「人生初の『ガンダム』」として『ガンダムSEED』に触れた2002年の中高生が、20年の間にいい大人になっているという側面もある。彼らにとって『ガンダムSEED』シリーズは子供の頃の思い出の作品であり、ノスタルジーを誘うタイトルであるはずだ。「21世紀のガンダム」という看板を背負って誕生した『ガンダムSEED』は、年月の経過とともに平成中期の思い出コンテンツへと姿を変えていたのである。
ノスタルジーという要素はバカにできない。人は基本的に「知らないもの」に金を払わず、「知っているもの」「昔知っていたもの」について財布の紐が緩くなる傾向がある。かくして、20年というちょうどいい期間寝かされたという点は、『ガンダムSEED』というコンテンツが再度ヒットする土壌を生み出したのだ。
ガンダムシリーズ内でも段違いの知名度を持つ大ヒット作の続編であり、放送当時の賛否両論がほどよく忘れ去られた時期に公開され、ゼロ年代へのノスタルジーをも武器にした『SEED FREEDOM』は、ヒットの条件が揃った作品だったと言えるだろう。その結果は前述の通り。今なおガンダムシリーズの映画として記録を更新し続けている。
さらに、映画版の脚本に参加した後藤リウによる『小説 機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』といった書籍類や、登場機体のガンプラ、各種関連商品などによる売り上げや波及効果は計り知れない。バンダイは総力体勢で『ガンダムSEED』関連商品を売っているし、それができる点がバンダイという企業の凄みだろう。
『SEED FREEDOM』は、「大ヒットしたコンテンツをうまく寝かせ、時季を見て再始動させる」というビジネススキームが極めて有効であることを示してみせた。手堅い商売の方法として、このスキームの応用例は今後も増える可能性がある。「20年ほど前に大ヒットしたコンテンツのリバイバル」は、大きな金脈なのだ