よしながふみ、荒川弘、和山やまの作品も マンガ大賞2024ノミネート全10作品を解説

 「人に勧めたくなる作品」というコンセプトで、2023年に登場した漫画から1番を選ぶ「マンガ大賞2024」のノミネート作品が出そろった。再度のノミネート作品もあれば過去の受賞者の新シリーズもあって、どれが受賞してもおかしくない作品が並んだ格好。ここから選考員がすべての作品を読んだ上で投票し、最終的な受賞作が決まる。

 今回の「マンガ大賞2024」には、書店員らをはじめとした漫画好きの選考員101人が最大で5作品をピックアップ。257作品への投票があって、ここから得票の多かった10作品が最終選考にノミネートされた。

マンガ大賞2024ノミネート作品

『神田ごくら町職人ばなし』(坂上暁仁、リイド社)
『君と宇宙を歩くために』(泥ノ田犬彦、講談社)
『正反対な君と僕』(阿賀沢紅茶、集英社)
『環と周』(よしながふみ、集英社)
『ダイヤモンドの功罪』(平井大橋、集英社)
『天幕のジャードゥーガル』(トマトスープ、秋田書店)
『ひらやすみ』(真造圭伍、小学館)
『ファミレス行こ。』(和山やま、KADOKAWA)
『平和の国の島崎へ』(原作・濱田轟天、漫画・瀬下猛、講談社)
『黄泉のツガイ』(荒川弘、スクウェア・エニックス)
※50音順

 『神田ごらく町職人ばなし』は、桶職人に刀鍛冶に紺屋に畳刺しに左官といった、江戸の町で様々な仕事に取り組んでいる職人たちを取り上げた作品。武士とは違って表舞台にあまり現れない職人の仕事ぶりが細部まで描き込まれていて、その時代のその場所にいるようにな感覚にさせられる。職人の仕事や江戸の風俗について学べて職人の魂にも触れられる作品だ。

 2023年11月に単行本の1巻が出たばかりでノミネートとなった作品が『君と宇宙を歩くために』。勉強は苦手でアルバイトも長続きしないヤンキーの小林が、転校してきてクラスメイトになった宇野に助けられ、関係を持つようになって自分も変わろうとするストーリーだ。正反対の生き方をしている2人がお互いに影響を与える様に、誰かをふれあう大切さを学べるだろう。

 『正反対な君と僕』も同様に、エネルギッシュな割に周囲の目を気にするところがある女子高生の鈴木と、寡黙だが芯は強く自分を貫こうとする男子高校生の谷という、正反対なキャラクターの2人が付き合い始めるストーリー。すれ違い気味だった関係がコミュニケーションを深めて強くなっていく展開に、他人と関係を作る上で大切なことを教えられる。そんな作品だ。

 『環と周』は、連載既刊が17年に及んだ『大奥』を完結させ、『きのう何食べた?』を描き続けているよしながふみによるオムニバス連載作品。娘の朱里が同学年の女の子とキスをしている場面を観てしまった母親が、夫に相談したところから浮かぶ同性間の恋情について触れつつ、様々な愛の形を描いていく。よしながふみは、第1回のマンガ大賞2008に『フラワー・オブ・ライフ』『きのう何食べた?』『大奥』が同時ノミネートを果たして以来のノミネートとなった。その意味でも注目だ。

 平井大橋『ダイヤモンドの功罪』は、「このマンガがすごい!2024」のオトコ編1位となった話題作。卓越した運動神経を持っていることで、いつも周囲から浮いてしまっていた少年、綾瀬川次郎が野球チームに入って周囲を変えていく青春ストーリーが描かれる。『ブルーロック』や『アオアシ』といったサッカー漫画にスポットが当たっていた中で急浮上した野球漫画はトレンドを変える起爆剤となるか。

 トマトスープ『天幕のジャードゥーガル』は「マンガ大賞2023」に続けてのノミネート。主人をモンゴルの襲来によって殺され奴隷にされた少女が復讐を目指すストーリーで、世界を席巻したモンゴル王朝の内部を女性たちの視線から描いていく。戦争や謀略といったハードな内容が愛らしいタッチの絵で緩和され、モンゴルという国への関心を強くしてくれる。

 『ひらやすみ』は「マンガ大賞2022」以来2年ぶりとなるノミネート。杉並区にある平屋に暮らす29才のフリーターと、山形から上京してきた従姉妹のなつみちゃんとの生活を描いて、クールでスタイリッシュで喧噪に満ちた大都会といったイメージとは違う、普通の人たちが普通に暮らしている東京の町のほのぼのとした様子を見せてくれる。前回は第3位だったが今回は栄えある受賞となるか。

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