ゴールデングローブ賞5冠『オッペンハイマー』何が凄い? 現地記者に聞く、米国での評価

 原爆の父を描いたクリストファー・ノーラン監督の最新映画『オッペンハイマー』が、第81回ゴールデングローブ賞(2024年)のドラマ部門の作品賞など5冠を達成し、大きな注目を集めている。日本は被爆国ということもあり、映画公開には賛否があったものの、配給会社ビターズ・エンドは、この映画の題材が「私たち日本人にとって非常に重要で特別な意味を持つものです」として、本年度に全国公開することを決定している。1月22日には映画公開に先んじて、2006年にピュリッツァー賞を受賞した原作『オッペンハイマー』上・中・下巻の文庫版が、早川書房より刊行される。

 早くも本年の最重要作と目される映画『オッペンハイマー』は、どのような点が評価されているのか。米ロサンゼルス在住の映画ライターで、本年度のゴールデングローブ賞の選考にも携わった平井伊都子氏に聞いた。

「アメリカで『オッペンハイマー』が公開されたのは2023年7月ですが、いまだにIMAXでのリバイバル上映が続く異例のロングランヒットとなっています。日本公開に関しては物議を醸した作品ですが、そのことをアメリカ人に話すとむしろ驚かれる状況です。というのも、本作はオッペンハイマーの原子爆弾開発を美化するようなものではなく、新しい技術を発見することに取り憑かれてしまった研究者の苦悩を描く“反戦映画”だからです。研究に没頭したがために人生が思わぬ方向に進んでしまった男の悲劇を、これまでにない映画的手法で描き切っています。ゴールデングローブ賞5冠も納得の作品と言えるでしょう」

クリストファー・ノーラン(左)と『哀れなるものたち』で主演女優賞に選ばれたエマ・ストーン(右)。(C)Golden Globes

 『オッペンハイマー』の斬新な手法は、クリストファー・ノーラン監督にとっても大きな挑戦だったと、平井氏は見ている。

「原作の『オッペンハイマー』は評伝であり、派手なアクションシーンがあるような本ではありません。クリストファー・ノーラン監督は、その原作の特性を活かして“会話劇によるアクションフィルム”を作り上げました。実際に『オッペンハイマー』はほとんど会話のシーンで成り立っているのですが、3時間の大作であるにも関わらず、まったく見飽きることがないスリリングな映像となっています。モノクロとカラーの映像を使い分けたり、登場人物の表情をアップで映し出したりすることで、観客を物語に没入させている。登場人物の表情に極限まで寄って撮影する手法は、2014年の『インターステラー』からノーラン作品で撮影監督を務めているホイテ・ヴァン・ホイテマによるもので、2020年の『TENET テネット』で用いた手持ちカメラで被写体に寄る撮影手法がIMAXの特性を最も活かせると発見したそうです。映画表現にはまだ未知の可能性があるのだと気付かされました」

 会話劇を新たな映像体験へと昇華したことが、本作が評価された大きなポイントである一方、作品の問いかけや物語もクリストファー・ノーラン監督自身に根ざしたものになっているという。

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