解読『ジョジョの奇妙な冒険』Vol.2
解読『ジョジョの奇妙な冒険』Vol.2 スタンドという“発明”ーー他に類を見ない表現と概念を考察
「波紋」が描かれなくなった理由とは
ちなみにこのスタンド、いまでは『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの代名詞のようになっているが、実は第1部と第2部では登場しない。
では、第1部と第2部の主人公たちはどのようにして敵と戦ったのかといえば、それは、「波紋」と呼ばれる技を使ってであった。
波紋とは、東洋の仙道に伝わる特別な呼吸を使い、太陽の光と同じ波動を持つエネルギーを生み出す技のことである。そう、一見、似たもの(エネルギーの可視化)のように思えるかもしれないが、波紋とは「技術」のことであり、「スタンド」とは「力」のことなのだ。
ちなみに、波紋は、後続の作品――たとえば、近年最大のヒット作でいえば、『鬼滅の刃』の「呼吸」などに多大な影響を与えていると思われるが、実は荒木の「発明」というわけではない。というのは、もともとこの種のスーパーナチュラルな要素の強いバトル漫画では、人間の潜在能力を引き出すために、体内の“氣”の流れを調整したり、特別な呼吸法を用いたりするという設定が少なからず存在するからだ(先行作でいえば、『北斗の拳』の「転龍呼吸法」などがよく知られているところだろう)。
だからたぶん、独自の表現にこだわる荒木は、(言葉は悪いが)手垢にまみれた表現である呼吸を使った戦術ではなく、スタンドという自らの「発明」ともいえる新しい超能力表現へとしだいにシフトしていったのではあるまいか(『荒木飛呂彦の漫画術』によると、担当編集者から「もう波紋は飽きた」といわれたのがきっかけで、スタンドの設定を考えたらしいが……)。
いずれにせよ、波紋と類似した技は、(前述の『鬼滅の刃』のように)他の漫画家が描いても特に問題はない。しかし、スタンドと似たような超能力表現は、荒木以外の漫画家が描いた日には、間違いなくパクリといわれるだろう。
この先、『ジョジョの奇妙な冒険』が第何部まで続くのかは定かではないが、たとえ主人公や時代が変わっても、スタンドさえ出てくれば、それは『ジョジョの奇妙な冒険』なのである。これはやはり、凄い「発明」だという他ない。
[付記]『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの主要人物でただ1人、ジョセフ・ジョースター(第2部の主人公)は、スタンドと波紋を併用できる稀有な存在である(第3部の終盤、宿敵DIOを相手に、自らのスタンドに波紋のエネルギーを流し込むという奇策を見せた)。また、ジャイロ・ツェペリ(第7部の主人公の1人)は、基本的には「鉄球の回転」を応用した技を使うのだが、一時的にスタンドを使えるようにもなった。