聖地巡礼、萌え4コマ、踊ってみた……『涼宮ハルヒの憂鬱』と『らき☆すた』が生んだ数多のポップカルチャー
『らき☆すた』に登場する、柊かがみと柊つかさの姉妹の父親は鷹宮神社の宮司という設定で、この鷹宮神社のモデルが今は久喜市となった鷲宮町にある鷲宮神社だったことから、2007年のアニメ放送以降、現地を参拝に訪れる人が急増した。2007年の正月三ヶ日は9万人だった参拝客が、アニメ放送後の2008年には一気に30万人まで増え、ピーク時には47万人に達した。
こうしたアニメファンの来訪を現地も歓待。鷲宮神社の鳥居前にある大酉茶屋を始め近隣の店がグッズを置いてファンをもてなし、地元の商工会も積極的にファンを喜ばせようとする活動を行った。結果、ファンの方も居心地が良いからを足繁く通うようになる好循環が、一過性には終わらない盛り上がりを呼んで地域経済にも貢献した。
この様子を見た地方の市町村でも、アニメ作品とのコラボレーションに乗るようになっていく。『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない』では埼玉県秩父市、『ガールズ&パンツァー』では茨城県大洗町がアニメ聖地としてファンを受け入れ、ファンも通うようになって現在に至るまで衰えない賑わいを見せている。
少女たちが集まって日常会話や部活動を繰り広げる様子を、4コマ漫画形式で描いていく”萌え4コマ"と呼ばれるタイプの作品が話題となり、アニメ化されて超人気作になっていく動きも、『らき☆すた』のTVアニメ化あたりから、どんどんと強まっていった。
前例に『よつばと!』のあずまきよひこによる『あずまんが大王』があるが、どちらかといえばシュールな面白さで注目を集めた『あずまんが大王』と比べると、『らき☆すた』は泉こなたのオタクにありがちな言動と、他のキャラクターの愛らしい日常のどちらも支持され、漫画として人気を獲得しアニメも評判となった。以後、蒼樹うめ『ひだまりスケッチ』や黒田bb『Aチャンネル』といった作品が漫画からアニメとなっていった。
その延長にあるのが、かきふらい原作の『けいおん!』だ。『涼宮ハルヒの憂鬱』や『らき☆すた』と同じ京都アニメーションがアニメ化を担当。リアリティたっぷりにアニメで再現された楽器の演奏シーンと、ストーリーの面白さでリアルにはガールズバンドのブームを作り、アニメ業界的には『BanG Dream!』や『ぼっち・ざ・ろっく!』といったバンドものを生み出していく。この源流を、TVアニメでハルヒがバンド活動を行う様を描いた「ライブアライブ」のエピソードに求めるとしたら、『涼宮ハルヒの憂鬱』が残したものの大きさも改めて分かる。
さらに、この『涼宮ハルヒの憂鬱』のエンディングと、『らき☆すた』のオープニングでキャラクターたちをダンスさせたアニメ映像を真似て、2006年にローンチされた「ニコニコ動画」の中でダンスを披露する人たちが現れた。これが、ネットという新しいメディアを使って自分を表現することを促し、YouTuberなりVTuberの登場へと繋がっていったとしたら、『涼宮ハルヒの憂鬱』や『らき☆すた』は、現在のポップカルチャー状況の源流を作ったとも言える。ハルヒたちに楽器を弾かせ、ハルヒやこなたたちを踊らせた人は、富野由悠季監督のように文化功労者として表彰されてもおかしくはない。
今、同じように10年後、20年後のポップカルチャーに多大な影響を与えるライトノベルや漫画やアニメ作品があるとしたらどれだろう。『涼宮ハルヒの憂鬱』と『らき☆すた』の20周年を祝いつつ、そんなことを考えてみたくなる。