マカロニえんぴつの10年間はトライ&エラーの連続だったーープロデューサー兼チーフマネージャー・江森弘和インタビュー

サティが抜けて、マカロニえんぴつが本当の意味で“バンド”になった

『マカロニえんぴつ青春と一緒』より。江森弘和とメンバー。

ーーメンバーと向き合い、少しずつバンドの活動規模が大きくなるなかで、江森さんのスタンスや考え方が変化する。その過程も、この本の読みどころだと思います。

江森:確かに向き合い方は変わってきました。ワンオペで回しているときと、スタッフがいるときでも違いますし。メンバーの間のバランスも変わってきますからね。はっとりが完全にイニシアティブを取ってる状態から、少しずつ(曲作りやアレンジの)パーセンテージも変わってきて、僕の向き合いからも自然と変化するというか。

 こういう言い方が合ってるかわからないんですけど、“正解”を僕が言いすぎるのもよくないんです。大きな傷にならなければ、「ここは失敗させる時期だな」ということもあって。たとえば、スタッフが持ってきた案件をメンバーが「これはやりたくない」と言うとするじゃないですか。数字を示して、理路整然と説明して説得することはできるんだけど、もしかしたら「無理にやらされた」と感じるかもしれない。だったらメンバーの意見を受け入れて、その結果を見せることで「やったほうがよかった」と気付かせるほうがいいだろうなと。こちらから「やったほうがいい」と言うにしても、タイミングを見定める必要があって。僕以外の人に伝えてもらったほうがいい場合もあるし、そのあたりはかなり繊細にやっています。

ーー客観的に自分たちのことを見るための経験を積ませる、ということですか?

江森:そうですね。「これはやらなくていい」「これはダメ」みたいに決めつけず、バンドにとっていちばん良い選択をするのが大切なので。そのうえで自分たちのやったことがどう伝わっているのかを把握するというか。でも、それが難しいんですよ。ライブもそうで、本人たちが「めっちゃ良かった」と思っても、お客さんの反応がそうでもなかったり。逆もあるんですけどね。はっとりが「今日は歌えてなかった」と思っていても、「いいライブだったね」と言われることもあります。それはマカロニえんぴつだけではなく、どのバンドもそうですけどね。

ーー『青春と一緒』のなかには、はっとりさんがステージで「今日のライブはダメです」と言ってしまったことに対して、「絶対に言っちゃダメだ」と諭す場面もありますね。

江森:高松のライブですね。さっきのプロ意識の話ともつながるんですけど、新人だった頃は、ちょっと卑屈になることがあったんです。東京で1000人クラスのライブをやっていても、地方では苦戦することもあるし、「車で移動して、体がバキバキ」とか「乾燥していて声の調子が良くない」ということもある。機材だってあるし、ソールドアウトしても赤字なんだから、新幹線で移動なんてできないですからね。そのなかでライブをやるのは確かに大変だけど、お客さんには関係ない。その日にしか来れないファンもいるわけで、ステージの上で「今日は良くなかった」なんて言っちゃダメなんですよ。調子が良くても悪くても、プロとして、その日だけの生のライブをやらなくちゃいけない。

ーードラマーのサティさんが脱退したときのこともかなり詳しく書かれていますね。

江森:そうですね。メンバー自信が隠したい過去だと捉えていたらもっとオブラートに包んだと思うんですけど、そうではないので。10周年のインタビューなどでも、「『ミスター・ブルースカイ』はサティに向けた曲」という話をしてたんですよ。制作前にも「(メンバーの脱退は)テーマとして避けては通れないよね」と話していたし、しっかり消化できたからこそ、あの曲が出来たので。しかもサティが抜けて、マカロニえんぴつが本当の意味で“バンド”になったんです。サティは曲も書いていたし、はっとりもライバル視している存在でした。彼が脱退したことで、メンバー全員の意識が変わったんですよ。はっとり自身も、サティにあの一言を言われなかったら、メンバーに向き合えなかったかもしれません。

ーーサティさんがはっとりさんに伝えた「はっとりも変わらないと、これから周りがついてこないよ」という言葉ですね。

江森:そうです。バンドを動かすためには、誰かがジャッジしたり、他のメンバーを引っ張ることが必要なんですけど、そのためにはどうしてもはっとりのワンマンっぽくなることが多くて。楽曲のアレンジにしても、「俺が作ったものをそのまま弾いてくれ」というスタンスなのに、どこかで「おまえらもアイデアを持ってこいよ」という気持ちもあったみたいで。はっとり自身も言ってるんですけど、矛盾してたんですよね。でもサティが「はっとりが変わらないと、周りがついてこないよ」と言ってくれたことで、いろいろ考えるようになって。バンドやめるタイミングでそんなこと言うのもすごいですけどね。僕だったら「うるせえ。お前、辞めるんだろ?」って思うかも(笑)。

ーー確かに「お前に言われたくない」と思ってしまうかも……。

江森:赤裸々に話すと、はっとりも最初はサティの言葉を受け入れられなかったと思うんです。その後、サポートドラムの方に入ってもらったり、自分たちのことを客観的に見ることによって、少しずつ心が溶かされたというか。そこからメンバーの関係やバンドの雰囲気も確実に変わってきましたね。

ーーなるほど。バンドのマネージメントの面白さと大変さ、苦難と喜びがリアルに味わえる本ですよね。

江森:めんどくさいこと大変なことが9割ですけどね(笑)。1割の喜びでやれてます。

関連記事