ミスチル、安室奈美恵、ハイスタ、宇多田ヒカル……アルバムで振り返る90年代J-POPの潮流

 音楽シーンにとって90年代とはCD売上の最盛期であり、いわゆるJ-POPと呼ばれるジャンルが確立された時代でもある。それまでは歌謡曲と呼ばれていたジャンルがポップスに変化し、ラジオ局のJ-WAVEの開局やタワーレコードのコーナー展開などをきっかけに日本のポップスはJ-POPと呼ばれるようになった……というのは、私のような1994年生まれの人間にとっては後追いで身につけた知識だ。CDが飛ぶように売れ、CDバブルとも呼ばれていた90年代において音楽シーンが目まぐるしい変化を遂げていたことは想像に易いが、その一方で当時を経験していない人間にとっては当時のシーンにおいて転換点となった作品やその流れを掴むことは決して簡単ではない。

 近年、90年代~00年代の楽曲がリバイバル的にヒットしている。昨年にはNetflixのドラマ『First Love 初恋』をキッカケに宇多田ヒカル『First Love』がヒット。ブラックビスケッツの『タイミング~Timing~』はTikTokなどでブームとなった。改めて90年代のJ-POPがリバイバルヒットし音楽シーンが見直され、ストリーミング配信の普及で当時の作品に簡単にアクセスできるようになった昨今、改めて90年代の音楽について深く知りたいという需要の高まりも感じている。そんな90年代J-POPシーンを掘り下げるために、私のような90年代をリアルタイムに体験していない世代はもちろん、当時を生きた世代の方にもオススメしたい1冊が栗本斉の『「90年代J-POPの基本」がこの100枚でわかる!』だ。

栗本斉『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる』(星海社)

 栗本と言えば昨年2月に『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる』でも話題を読んだライターだ。竹内まりやの『Plastic Love』や松原みきの『真夜中のドア~Stay With Me~』などのシティポップ流行を踏まえて書かれたこの本は、音楽ファンを中心に大きな話題を読んだ。『「シティポップの基本」が~』は1975年リリースのシュガー・ベイブ『SONGS』から2021年リリースのYogee New Waves『WINDORGAN』まで、シティポップの黎明期から最先端までを振り返り、シティポップにおける名盤はもちろん、シティポップというジャンルそのものの歴史を解き明かした1冊であった。対して今回の『「90年代J-POPの基本」が~』については、特にJ-POPの全盛期とも呼ばれる90年代にリリースされた作品にフォーカスを当てることで、J-POPシーンにおける90年代という時代そのものを体系化する1冊となっている。

 取り上げるミュージシャンも実に様々だ。今年デビュー45周年を迎えたサザンオールスターズや50年以上音楽シーンで活躍し続ける松任谷由実といった、90年以前より活動をしていたミュージシャンたち。Mr.Childrenや安室奈美恵といった90年代に衝撃的な登場を遂げ、その時代の寵児となったミュージシャンたち。ヒップホップシーンにおけるRHYMESTERや、メロディックパンク・シーンにおけるHi-STANDARD、R&Bシーンにおける宇多田ヒカルや岡村靖幸など、J-POPだけでなくその後の各音楽ジャンルシーンに多大な影響を与えたミュージシャンたち。CDの売上に関わらず、90年代J-POPシーンの中で取り上げられるべきミュージシャンたちのアルバム100枚のディスクレビューが年を追うように収録されることで、擬似的に音楽シーンの90~99年の10年間を体験することができる。

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