未来ドロボウ、恋人製造法……『藤子・F・不二雄 少年SF短編集』にこめられた教訓を考察
今年12月に生誕90周年を迎える藤子・F・不二雄。『ドラえもん』などが注目されることは多いが、実は隠れファンが多いのがSF短編集だ。人間の欲望や恐ろしい本性にドキッとさせられる物語、意外な結末や大人になってから読むと考えさせられる要素が詰まった、藤子・F・不二雄流の「少し不思議な物語」の中から、特にメッセージ性が強い『藤子・F・不二雄 少年SF短編集』収録作の2作を紹介したい。
未来ドロボウ
「人生の成功者になる」という野心を持ちながら、家が貧しいために高校進学を断念した主人公・学が、大富豪と身体を交換するが、実は余命数ヶ月の死を待つ老人だった、という物語。若さと病気のない身体を手に入れ人生を謳歌する老人。対して学は不自由な身体と、家族や友人の誰にも自分と気づいてもらえないことにふさぎ込み、最終的に寝たきりになってしまう。
状況に変化が訪れたのはストーリー終盤、断念していた高校へ進学できることになり、その夜、老人が学に身体を返すことを決断するのだ。老人は、「若いということは想像以上に素晴らしい、世界中の富を持ってきても釣り合わないだろう」と力説し、だから未来を正当な持ち主に返さなければいけないという。
大富豪と若者の身体交換というキャラクターの構図から、「Time is Money」という格言が真っ先に思い浮かぶ。読み進めて行くと、むしろ“大切な人生の時間をどう過ごすか”に対する藤子・F・不二雄のメッセージが描かれていることが分かる。
身体交換までは、受験勉強のために学校の友達との時間を削り、家族に不満を漏らしてはぞんざいに扱かっていた学が、老人の身体になった後、その不自由や孤独感、仲間や家族と過ごす時間の大切さなどを噛み締める展開は秀逸だ。
「1日1日をたいせつに」老人から若者への最後のメッセージは、そのまま作者から彼の漫画を読んでいる子供たちへの教訓なのである。