朝ドラ『ブギウギ』笠置シヅ子とはどんな人物だったのか? 自伝から音楽史まで、関連書を読み解く

 10月2日から放映が開始されたNHK連続テレビ小説『ブギウギ』、皆さんご覧になっていますか? 今回の朝ドラはいつにも増して注目度が高いようで、書店に並ぶ関連書の数も多い。ドラマに合わせた新刊だけでなく、復刊も目に付く。その中から重要と思われるものを何冊かピックアップして『ブギウギ』鑑賞の手助けとしてみたい。

笠置シヅ子『笠置シヅ子自伝 歌う自画像 私のブギウギ伝記』(宝島社)

 ドラマ『ブギウギ』は二週目が終わったところ。個人や組織、団体が仮名に替えられているものの(「日劇」を「日帝」にしたのはちょっとどうかと思った)、おおむね史実に忠実に展開しているようだ。

 そこでまず取り上げるべきなのは、『笠置シヅ子自伝 歌う自画像 私のブギウギ伝記』(宝島社)だ。笠置自身が語った半生記の復刻である。

 オリジナルが北斗出版社から発売されたのは1948(昭和23)年9月。この親本はかなり稀覯だと思われる。というのは国会図書館にも収蔵されていないからだ。GHQ占領下の出版物は検閲のために収集されていた。GHQ解体後、資料群は米国のメリーランド大学に移管され「プランゲ文庫」と名付けられた。プランゲ文庫には日本からは失われた出版物が大量に収蔵されている。『笠置シヅ子自伝』もある。同文庫は国会図書館と提携しているため、現在は、電子化された書籍を国会図書館デジタルコレクションを通じて閲覧することができる。

「東京ブギウギ」が発売されたのは同年1月。自伝発売の9ヶ月前だ。この曲の大ヒットにより笠置は「ブギの女王」と称されるようになった。前年の6月には娘ヱイ子が生まれている。本書の終章はヱイ子への思いが綴られたもので、「(ヱイ子の初の誕生日、六月一日擱筆)」との添え書きで締められている。

 つまり、新生児の世話に加えて、人気が爆発し、殺人的に多忙になっていったその最中にこの「自伝」は書かれたわけだ。自然、ゴーストライターの存在が疑われるが、実は特定されている(後述)。

 内容に移ろう。風呂屋の娘として育ち、歌と踊りが大好きで、宝塚歌劇団を受けるが不合格になり、悄然としたのも束の間、生徒募集もしていなかった松竹楽劇部(SSK)へ入れてくれと押しかけまんまと入団してしまう…というドラマそのままの物語が笠置自身の言葉として語られている。笠置の生い立ちからすると不自然だったり不似合いだったりする言葉遣いもあるが、闊達な口調からは人柄が滲むようだ。この自伝は口述筆記されたものに違いない。

 巻末には、笠置と所縁の深い著名人が、彼女や彼女との関わりについて語った短文を寄せている。作家の林芙美子、演劇評論家の旗一兵、作曲家の服部良一、喜劇俳優の榎本健一の4人だ。

 笠置の記憶違いや、後に真相が判明した事実の食い違いなどもあるものの、以降、笠置について書かれる記事や書籍はほぼすべてこの『笠置シヅ子自伝』に依拠することになる。

砂古口早苗『ブギの女王・笠置シヅ子 心ズキズキワクワクああしんど』(潮文庫)

 戦後に人気を博した歌手は何人かいるが、笠置シヅ子は、子供から大人まで、パンパンから知識人文化人まで、幅広く支持されて別格の存在感を放っていた。東大総長の南原繁が後援会長を務めていたのもよく知られる。美空ひばりがそもそもは、笠置の物真似で注目され「ベビー笠置」のキャッチフレーズで売り出されて、「ブギの女王とブギの豆女王」などと並べられた事実からも、その人気が圧倒的だったことがうかがえる。

 ところが、それほどの大スターだったにもかかわらず、笠置の評伝は長らく書かれなかった。やっと登場したのは2010年、実に死後25年経ってのことだった。

 砂古口早苗『ブギの女王・笠置シヅ子 心ズキズキワクワクああしんど』(潮文庫)がその初の評伝で、『ブギウギ』にあわせて文庫化された。帯には「原案本」とうたわれている。『ブギウギ』に原作はないとオフィシャルはアナウンスしているが、間違いなく参照はしているだろう。

 砂古口の評伝の特徴は、占領下から戦後という時代あるいは世相との相関相克を認識の軸にして、笠置シヅ子の半生を描いた点にある。その軸の上で、服部良一やエノケン、婚約者でヱイ子の父である吉本エイスケなどをはじめとする、彼女の人生や芸道にとって重要な人々との関わりなども描かれている。

 なかでも注目したいのは、美空ひばりとの関係である。美空は「ベビー笠置」との評判を取りデビューしたわけだが、やがて笠置の持ち歌を歌うことを服部良一に禁止されるなどギクシャクし始め、笠置と美空は犬猿の仲だという噂が広まり通説になった。笠置が美空についてほとんど何も言い残していないため実情がよくわからなかったのだが、砂古口は様々な資料を手掛かりに、美空と笠置、および服部の関係の真実に迫っている。

『笠置シヅ子自伝』のゴーストライターが誰であったかも、砂古口は突き止めている。その人物の名前は、実はここまでにすでに登場している。それは誰か…、答えは読んでのお楽しみということで。

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