『8マン VS サイボーグ009』夢の共演はなぜ実現した? 原典へのリスペクト溢れるクロスオーバー

 物語のベースになっているのは、『サイボーグ009』である。そこに『8マン』の世界を組み入れたといっていいだろう。ただし、二つの作品に捧げた七月の敬意は同等だ。島村ジョーといえば加速装置だが、8マンも同じような能力を持っている。冒頭を彩る加速世界での戦いから七月は、どちらのキャラクターの魅力も損なうことなく、恰好いいハイスピード・アクションを展開させるのだ。他のサイボーグ戦士も要所で活躍させ(003ことフランソワーズの使い方とか、実に上手い)、最後まで読者の興味を引っ張るのである。

 また、両方の原典の内容を巧みに取り入れたり、想起させてくれる。個人的には、『8マン』に登場するナイト・デーモン博士を大きく扱ってくれたのが嬉しい。さらに、8マンとジョーたちを通じて、人間の心を持つロボットやサイボーグの苦悩についても掘り下げている。どこまでが人間で、どこから人間と違う存在になるのか。クロスオーバー作品だからこそ可能になった、深い問いなのだ。このテーマがあるからこそ、ラストに胸打たれるのである。

 早瀬マサトの作画についても言及しておこう。『8マン』の登場人物は桑田次郎タッチ、『サイボーグ009』の登場人物は石ノ森章太郎タッチと、それぞれ描き分けられている。にもかかわらず、読んでいて違和感を覚えない。だからスイスイ読める。この絵の力も、高く評価したいのである。

 ところで本書の下巻には、『8マン』の読切短篇「決闘」及び、平井和正が書いたアニメ『8マン』第三十四話「決闘」のオリジナルシナリオが収録されている。他にも本の装丁などを含め、サービス満点。作り手側の『8マン』と『サイボーグ009』が好きだという気持ちが、あちこちから伝わってくる。漫画や小説を問わず、こういう本は読んでいて、とても嬉しい気持ちになるのだ。

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