フリーアナウンサー・堀井美香が語る、聴くことの重要性「“聴きポジ”というスタンスがコミュニケーションを円滑にしてくれる」

まずは相手のリズムや波長に合わせること


――今の社会は声の大きい人の方が、ポジションを取りやすい印象がありますが、聴く側としてのアドバイスはありますか?

堀井:性格や話し方、その特徴にも寄ると思いますが、今ビジネス界では、声の大きい人がリードする会議などはあまり良しとはされていない気がします。そういう方の意見が通ることは、よく起こりうることだと思いますが、こちらが黙っていると押しつぶされてしまいますよね。一方的な会話を聴くだけではなくて、きちんと最後まで意見を聴きながらも、疑問があればその間を埋めていくことは必要だと思います。

――堀井さんはインタビュアーとしても様々な職業の方にお会いされると思いますが、相手によってどのように対応を変えられていますか?

堀井:相手に合わせてお話をするのは、とても難しいことですよね。私が意識しているのは、まず相手のリズムや波長に合わせること。ミラーリングのように、頷いたり、相槌を打ったりなど、話し相手のスピードに合わせて行います。

 これまでにアナウンサーとして俳優さんやタレントさんも多くインタビューしてきました。台本の中には必ず聞かなければいけない質問があるのですが、お相手の方もたくさん取材を受けていて、同じことを聞かれている。そうすると相手も自分も飽きてしまうんですよね。そこで同じ質問であっても、自分なりの言い回しを考えるなど工夫をするようにしています。

――“聴きポジ”として円滑なコミュニケーションを取るために、試してみるとよい具体的な方法はありますか?

堀井:初歩的なアドバイスとして、相手が話した1ワードを選んで質問することから始めるのがおすすめです。その1ワードから質問を投げかけて、会話を掘り下げていく方法が一番簡単だと思います。もし苦手な人がいたとしたら、「こういう考え方の人もいるのだな」と情報の一つとして、聴いておくのもいいと思いますね。


――ジェーン・スーさんとのポッドキャストでも、堀井さんの聴き方がすごく学べます。

堀井:あの番組は、本当に聴きポジですが、ほどよい具合に聞き流してもいます(笑)。全部を聴いて、すべて消化しようと思ったら大変じゃないですか。なので、このポイントを聴いておけば相手が喜ぶかな? とか、ここから話が広がっていきそうだなとか、単語を抽出していますね。

――巻末には、長くインタビュー連載をされている、阿川佐和子さんとの対談もありました。阿川さんのインタビューと堀井さんのインタビューの違いはなんでしょうか。

堀井:阿川さんと私は、聴き方の手法が全く逆でした。阿川さんは、阿川佐和子というキャラクターをきちんとお持ちの方なので、誰にインタビューをしても阿川さんなんです。インタビュイーに迎合したり、何を聴けば喜ぶかを考えるのではなく、自分が聴きたいことに素直に向き合っている方だと思います。天真爛漫に、その瞬間で聴きたいことを聴いていらっしゃる印象で、その姿勢はすごく魅力的でした。

 私はアナウンサーという職業柄、私がいて、インタビュー相手がいて、さらにそれを聴く人がいるという三者の視点で仕事をしているので、自分の話はほとんどしません。相手が話しやすくなるように、全体の雰囲気が良くなるようにと下地を作る役目を担ってきました。同じ“聴く”でも方向性は決定的に異なりますが、どちらの方法も良いと思います。

コミュニケーションに悩んでいる人に届いてほしい


――最後に、この本をどんな方に届けたいですか?

 堀井:人とコミュニケーションを取るうえで、少し「居心地が悪いな」とか「自分をどう表現したらいいのか分からない」など、悩んでいる人に読んでほしいです。聴き方のスキルを上げたいということではなく、コミュニケーションを少し苦手に感じている人たちの足かせになっているものが軽くなる本であるといいと思っています。

 聴く側であるということは、決してマイナスな行為ではなくて、自分の存在を認めるために良い方法だと気がつきました。聴くことで話を広げたり、話し相手を和ませたり、“聴きポジ”というスタンスを知っているだけで、コミュニケーションを取るのがもっと気楽になることを伝えたいですね。

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