新川帆立 最新小説は「縁切り」がテーマ「ミステリの手法を使って結婚や人間の多面性を描きたかった」 

 デビュー作『元彼の遺言状』が月9ドラマ化されシリーズ累計で100万部を突破、その後も話題作を続々と発表する、最注目の新鋭ミステリ作家・新川帆立氏。この度、「縁切り」をテーマとした最新小説『縁切り上等! 離婚弁護士 松岡紬の事件ファイル』(新潮社)を刊行した。  

 神奈川・鎌倉の縁切寺の娘で、離婚弁護士として活躍する松岡紬(まつおかつむぎ)が、浮気、モラハラ、財産分与、親権の争いなど、一筋縄にはいかない相談事を解決していく。それらは弁護士事務所の探偵や事務員などの人生とも交錯し、各話は予想外のラストで閉じられる。なぜ、このようなテーマで執筆したのか、新川氏に話を聞いた。 (篠原諄也) 

「縁切り」をテーマに執筆した理由

ーー本作は『小説新潮』連載の単行本化だそうですね。執筆経緯を教えてください。  

新川:連載の話をいただいた当初は、別のミステリを書こうとしていたんですけど、なかなかうまくまとまらなかったんです。そんな時に貴志祐介さんの小説『悪の教典』を再読したら、リアリティラインの高さと小説としてのうまさに感動しちゃって。これほどクオリティの高い作品を自分も書いてみたいと思いました。  

 クオリティが高い小説を自分が書くならば、やはり現代のリーガルものがよいかと思いました。どんなお話にするかを考えて離婚に焦点を当てたのですが、もともとは「結婚って何だろう?」という漠然とした疑問があったんです。ニュースでは同性婚を認めない状態は違憲かという裁判が話題になっていますし、私自身は夫と10年近く一緒にいるんですけど、お互いに苗字を変えるのが嫌で事実婚をしているんですね。だから個人的なレベルで選択的夫婦別姓が導入されると嬉しいなと思っていて。そうした「結婚」という制度から弾かれてしまうものに興味がありました。  

 それで結婚とは何かを考えるためには、その裏の離婚を見てみれば良いんじゃないかと思ったんですね。また、以前書いた小説『先祖探偵』は、ご先祖様を調査する話でしたが、人の縁を感じるストーリーも多かった。人の縁って面白いなという気持ちもあって、「縁切り」をテーマにしてみようと思いました。  

ーー本作を執筆し刊行した今、結婚や離婚とはどういうものだと思いますか?  

新川:結局、よくわかりませんでしたね。法的に世帯を持つことは、社会を安定させるための一つの機能なのだと思います。また、人間の気持ちの上でも、誰かと一緒にいると落ち着くということがある。だから結婚制度自体はあったほうが良いようにも思いましたが、明確な考えはまとまりませんでした。むしろ読者さんのご意見を聞いてみたいです。  

ーー離婚弁護士の松岡紬は、恋愛にも結婚にも関心がありません。ユニークな人物像でしたが、どういう風に生まれたのでしょうか?  

新川:特別にモデルがいるわけではないんですけど、私の周りで「結婚しなくても楽しい」というタイプの人は結構いるんですね。そうした独身女性を悲壮感なく、魅力的に描きたいと思いました。  

 私の友達でも、結婚に対する価値観は大きく二つに分かれます。どうしてもパートナーが欲しいというタイプと、いなくても全然平気というタイプ。これは属人的なもので、修正できるものではないと感じました。つまり、パートナーが欲しい人は一人で生きていくのは難しいし、逆に欲しくない人は他人と一緒に住むなんて嫌だと思っている。そうした考えに対して、周りの人が意見するのも野暮で無粋なのではないか。 

 既存のエンタメで典型的に描かれがちなバリキャリの女性は「一人で平気なの!」という強がった雰囲気を出す一方、たまには寂しい夜があるということを描いて、親近感を抱かせたりします。でもそういう造形は、あまりリアリティがないと思ったんですよ。本当に一人で平気な人もいますので。  

ーー各話のラストが予想外の展開ばかりでしたが、特に最終話はどう終わるのかハラハラしました。すでに縁を切った二人が復縁するかどうかに焦点が当てられます。 

新川:誰の言葉だったかは忘れたんですけど、「読者さんの予想を裏切り、期待を超えるのが良い」と聞いたことがあります。だから、あまり予定調和にしたくないと思っていました。  

 基本的に離婚をしたい人が離婚後に一人で生きていくことを肯定的に描こうと思っていました。普通だったらこういうラストが幸せだよね、という風にはしたくなかった。だから、読者さんの予想とは違うところに着地したかもしれません。でもそこで「なるほど、こういうオチなのね」と納得感を持ってもらえたら嬉しく思っています。  

ーー縁切りの話とはいえ、読んでスカッとする爽快な印象もあります。  

新川:それは気をつけました。離婚は基本的に良い気持ちになるものではないので、読後感を良くする必要があるなと思って。この本を手に取ってくださる方は、もしかしたら離婚をしようと思っているのかもしれない。実生活で何かしら悩みや苦しみを抱えている方の心の栄養になるように、読んで少しでも元気が出るように前向きな終わり方にしました。 

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