【推しの子】は有馬かな&黒川あかねの物語? 恋愛でも仕事でも実は拮抗している“二人のヒロイン”を考察

※本稿は『【推しの子】』のネタバレを含みます。原作を未読の方はご注意ください。

 大好評のアニメ『【推しの子】』。6月7日放送の第8話で、天才女優・黒川あかねが見せた“演技”と、元天才子役・有馬かなのいじらしい姿が話題になっている。本稿では、“二人のヒロイン”について考えたい。

 「週刊ヤングジャンプ」&漫画アプリ「少年ジャンプ+」で連載中の『【推しの子】』は、若くしてこの世を去った天才アイドル・星野アイが残した双子の兄妹(アクア/ルビー)が芸能界に入り、事件の真相に迫っていく物語。第8話では、引き続き本作の主人公・アクアが参加する恋愛リアリティーショー『今からガチ恋始めます』(今ガチ)を舞台に、過剰演出や誹謗中傷の問題を乗り越えた黒川にスポットライトが当たった。

 徹底したプロファイリングでアクアの好みの女性=アイをその身に降ろし、猛アピールした黒川あかね。原作でも強いインパクトを残したこのシーンは、声優・石見舞菜香の鬼気迫る演技もあって、今季アニメのハイライトと言っていい内容に。一方、同じくアクアに思いを寄せる有馬かなの波立つ心情も描かれ、毎週行われている「原作名場面ボード」のプレゼント企画では、アクアとのキャッチボールの場面で飛び出したセリフ「#アクアとするのが初めて一番最初」がTwitterのトレンドになった。“前世”から続くアクアとの縁を考えれば妹のルビーこそ真のヒロインとも言えるが、「有馬かな VS 黒川あかね」という2大ヒロインの構図が出来上がった1話だ。

 つまり『【推しの子】』は星野アイの物語であり、アクアとルビーの物語でありながら、有馬かなと黒川あかねの物語でもある。現状では、恋愛の面でも仕事(俳優業)の面でも黒川が一歩リードしているように見えるが、実はいずれも拮抗している。

 恋愛面においては、アクアが人間らしい感情を殺し、相手を「利用価値」でのみ評価している(あるいは自分にそう思い込ませている)ことから、その時々でどちらとの関係性を重視するかが変わっていく。それが「恋愛」と呼べるものかどうかは別として、アクア自身よりもアイを理解し、芸能界を攻略する上でも「有用」な黒川あかねは、アクアに利用されることを許容しており、ある意味ではベストパートナーと言える。一方、有馬かなも「B小町」のメンバーとして妹・ルビーを支え、本来持っている役者としての力もアクアにとっての重要なピースになっていくため、手放せない存在だ。アクアは自分に対して盲目的な有馬を“チョロい”と考えていいように扱いながらも、どこか特別な存在として惹かれている節もあり、物語上はどちらが優遇されているとも言い難い。

 また「利用価値」にも重なる俳優業での成功については、「恋愛リアリティショー編」現在では天才舞台女優として地位を築きつつある黒川が、伸び悩む有馬を一歩リードしている。しかし、おそらくアニメ第2期で描かれるだろう「2.5次元舞台編」では、黒川の凄みとともに有馬の輝かしい才能が再発見される格好になり、こちらも優劣がつけ難い。

 このように拮抗している2大ヒロインだが、二人の関係性自体もエモーショナルだ。アクアをめぐるライバルとお互いを認識し、バチバチに火花を散らしながら、その才能を認め合う二人。黒川はそもそも「天才子役・有馬かな」に憧れて役者を目指した経緯があり、有馬は長く演技の世界に身を置いてきたからこそ、黒川の恐るべき才能を誰より知っている。少し状況が変われば親友になれそうな関係だが、果たしてどうなっていくのか。

 アニメ第8話を起点に、そんな二人の物語として本作を追いかけてみると、重苦しい展開にも違った楽しみを見出せるかもしれない。

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