「ぷよぷよまんじゅう」ファン歓喜の復刻登場 思い出すのは開発したゲーム会社「コンパイル」の凄さ

「ぷよぷよまんじゅう」が話題を席巻

 1990年代を代表するパズルゲームであり、eスポーツでも盛り上がっている『ぷよぷよ』がTwitterでトレンド入りしている。それは「ぷよぷよまんじゅう」という饅頭が販売されたためだ。ぷよぷよをかたどった何の変哲もないキャラクターグッズのように思えるが、違う。これは当時のぷよぷよファンの魂を揺さぶるお菓子なのだ。

 かつて『ぷよぷよ』を開発し、発売していた広島のゲーム会社・コンパイルは、1990年代の半ばから2000年代前半にかけて、地元の銘菓「もみじ饅頭」になぞらえた「ぷよまん」という饅頭を作り、「ぷよまん本舗」という販売店もあった。今回のぷよぷよまんじゅうはその金型をもとに復刻したもののようで、ぷよまんの名称はいろいろ大人の事情なのか使用されていないが、見た目は紛れもなくぷよまんそのものだ。

 これはTwitter上で大きな反響を呼び、懐かしのぷよぷよやコンパイルのグッズをUPする人が続出中だ。ぷよまんのほかに「カーバンクル饅頭」という饅頭もあったが、その箱をいまだに大切に保管している人もいることに驚かされる。さらに、ぷよぷよの公式のイラストやキャラクターデザインを務めた壱もイラストをUPしている。ぷよぷよがファンからも制作者側からも愛されるコンテンツだったことが、よくわかる。

秋田から広島へ「ぷよまん本舗」のために旅行

 記者も子どもの頃、熱狂的なぷよぷよファンだった。秋田県在住だったが、コンパイルがある広島県は憧れの存在であった。そこで中学2年の夏休みに元社会科教師であった祖父に「厳島神社と原爆ドームを見たい」と言って、強引に広島に連れて行ってもらったのだ。目当ては「ぷよまん本舗」なのだが、祖父は感心したようで、広島に連れて行ってもらうことに成功したのである。もちろん、厳島神社も原爆ドームを生で見て圧倒され、良い社会科見学になったのは言うまでもない。

 思えば、記者は『ラブライブ!サンシャイン!!』や『けいおん!』『らき☆すた』などいろいろな作品の聖地に行きまくってるけれど、広島が人生初の聖地巡礼だったかもしれない。当時、コンパイルはとんでもなく勢いがあり、「ぷよまん本舗」はJR広島駅構内にも数店舗あったし、なんと宮島にも進出していた。厳島神社を参拝後に立ち寄ったぷよまん本舗にとにかく感動した記憶がある。

 祖父の財布を頼りにグッズを買いまくり、凄まじい量になってしまった。持ち帰るのが大変なのでお店から送ってもらおうとしたら、ぷよまん本舗の店員さんが「どこから来たんですか」と聞いてきたので、「秋田県です」と答えたところ、「他のお店で買ったお土産もうちで送るとお得ですよ」と言ってくれたのだ。当時、確かぷよまん本舗は通販でいくら買っても送料は均一で、友人と一緒に買えばお得だと公式もアナウンスしていた。もし間違っていたら申し訳ないが、そのシステムが店頭でも適用されていたのだろう。とにかく凄まじい神対応だったし、おおらかな時代であった。

 祖父は気を利かせてくれたのか「友達の分も買ってやるから、学校で配ってもらえ」と言って、クラスメイトの人数分のぷよまんを買ってくれたのである。そのへんはさすが元教師ならではの気遣いだろう。かくして、ぷよまんは放課後に1個ずつ配布され、記者はとても誇らしい気分になったのであった。ちなみに、ぷよまんは祖父はもちろん家族にも大好評だった。家族で楽しめるキャラクターグッズを開発したコンパイルの先見性は見事と言うほかない。

 ところが、その1年後の1998年にコンパイルが和議申請を行い、倒産してしまった。ぷよまん本舗も相次いで閉店に追い込まれた。というわけで、実質的にぷよまん本舗が存続したのは数年だから、今思えば凄まじく貴重な体験をしたと感じる。

先駆的なゲーム雑誌「Disc Station」

 コンパイルは書籍の世界でも斬新な試みを行っていた。その最たる例が「Disc Station(ディスクステーション)」である。1000~2000円前後のムック本に、コンパイルの新作ゲームが何本か収録されたフロッピーやCDが付属しているのだ。記者は父が仕事に使っていたパソコンPC-9801が家にあったので、「Disc Station」を地元の書店「ミケーネ」で定期購読してもらっていた。

 『ぷよぷよ』のキャラクターが登場する様々なゲームや(『なぞぷよ』『魔導四五六』など)、『魔導物語』シリーズの外伝的なRPGが掲載された号もあった。そのほかにも『あっぷるそーす』や『幻世』シリーズなど、定番化したコンテンツも少なくない。コンパイルは『ぷよぷよ』のイメージが強すぎるのだが、それ以前はシューティングゲームで名を馳せたメーカーであり、「Disc Station」を見るとRPG、アクション、シミュレーションまで多彩なゲームを開発する能力があったことがわかる。

 そして何といっても、コンパイルのゲームのキャラクターはとにかく、とてつもなくかわいいのである。『ぷよぷよ』『魔導物語』のアルル・ナジャやルルーやドラコケンタウロスがかわいいのは言うまでもないが、『魔導物語』『キキーモラのおそうじ大作戦』のキキーモラは今で言うメイドさんの衣装だし、『せらだま』の女の子、『オプション☆モンスター』のモモちゃん、『幻世』シリーズのファーリンやアリババなどは現代にも通じるデザインであろう。

 コンパイルはその後、経営再建に失敗して空中分解してしまう。コンパイルを離れた社員はゲーム業界、漫画業界など様々な分野に移るが、『Fate/Grand Order』の武内崇を筆頭に後のゲーム業界を担う数多くのクリエイターが輩出されたことは筆頭に値する。戸部淑、三家本礼、貴島煉瓦、むらさき朱、ねこにゃんなどコンパイル出身のクリエイターは多い。

 また、「Disc Station」やコンパイルの会員誌「コンパイルクラブ」は、読者投稿コーナーのイラストのレベルが異様に高かった。その中からプロになったクリエイターも多い。記者は以前、「昔、コンクラ(コンパイルクラブの略)に投稿してましたよ!」と言うイラストレーターに会ったことがある。「インド人を右に!」の誤植で有名な「ゲーメスト」がそうであったように、当時のゲーム雑誌は今で言うPixivのようなイラスト好きのたまり場になっていたし、新人発掘・育成の場としても機能していたことがわかる。

 コンパイルについては社長を務めた仁井谷正充がインタビューで自身の経営手法の問題点を振り返っているし、それ以外にも様々な問題がジャーナリストや元社員からも指摘されている。とはいえ、ゲームを制作したい人にとっては楽園のような環境だったと思う。「Disc Station」はヤフオク!でも高価になってしまい入手困難なのだが、当時のコンパイルの技術力と勢い、そしてファンの熱狂を感じるうえで欠かせない歴史資料といえるだろう。ゲームはその後、再発売されたものが何本かあるが、何かの機会にムック本として復刻して欲しい。そう願うのは記者だけではないはずである。

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